長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(6)Side蓮×香穂子

香穂子が土浦と後輩の指導をした翌日。
噂の写真を撮り貯めていた天羽は、久しぶりに自分の会社に来た。
「あれ?天羽さん久しぶり」
同僚が天羽を発見すると、気安く声をかけてきた。
「おひさー」
天羽は軽く手を挙げながら同僚に答えた。
「最近見なかったですが、どうしたんですか?」
「うん?ああ、ちょっと海外に行ってたのさ」
「ああ、取材?」
「うん。取材を兼ねたリフレッシュって感じ。ちょっとヨーロッパ周遊弾丸ツアーってやつよ」
「…周遊なのに、弾丸なんですか?」
「そうそう。もうダッシュでヨーロッパじゅうを駆け抜けたから」
「…天羽さんらしいですね」
「あははっ、体力と行動力は誰にも負けませんからね」
天羽はそう答えながら、自分のデスクに座った。
「…まあ私的別件もあったから大変だったんだけど」
「え?」
「いやいやなんでもないっ…っとそうそう」
天羽は言葉を濁しながら、デスクの鍵を開けた。
「出掛ける時にさぁ、ここにプライベートのほうの携帯を忘れていっちゃったのよね…。ああ、あったあった」
「…仕事用のほうは忘れない辺り、天羽さんらしいですね」
同僚は苦笑しながら、引き出しから出された天羽の携帯を見た。
「まあねー。…っと充電して…っと」
日本脱出前からそこに置いてあった携帯は、既にバッテリーが切れていた。
天羽は苦笑しながらデスクに置いてあった充電機を取り付けた。
と、その時、隣の週刊誌の周辺が、やたらと盛り上がっている事に気づいた。
「…何?あれ?」
天羽は眉を潜めて同僚に尋ねた。
その週刊誌は、芸能スキャンダルをメインに扱い、…正直えげつないやり方でスクープを取ってきたりしていた。
その記事は捏造であったり、…うらどりをしていないうえ、スキャンダルの相手への連絡もまれという、…かなりゲリラ的なやり方をしていて、天羽はあまり好きではなかった。
…噂好きな大衆向けなんだろうけれど。
天羽がそう考えていると、同僚も同じらしく、眉を寄せながら答えた。
「ある音楽家の熱愛スキャンダルが直前に取れたらしくて…最近クラシックブームでしょ?いいネタだって本人に確かめもせずに記事にしちゃったらしくて…」
「クラシック?」
天羽は嫌な予感がした。
出身…というか、何の縁なのか、若手音楽家とはかなり縁があるうえ、スキャンダルの対象となりえる人間に知り合いが結構いるのだ。
…一体誰だろう?
そう思っていると、二人の会話を聞いたもう一人の同僚が、こっそり二人に近づいてきた。
「これ…お隣りから拝借してきたんだけど…見る?」
そう言って差し出してきたのは、明日発売のその週刊誌だった。
「…え?」
天羽はその本の表紙を見て、思わずその本を奪うように取り上げた。
「嘘…そんな…嘘書いて…!」
天羽はその本を見て、隣に怒鳴りこんでいった。
…そこには、天羽のよく知る、親友の恋人が、見知らぬ金髪美女に抱き着かれているものだったのだ。
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