長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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…その週刊誌は、翌日書店やコンビニなどに並ばれる。
その週刊誌を見つけた夜、天羽は自分の携帯の着信履歴や、メールを見ながらため息をついた。
そこには、天羽が日本不在の間に、なんども連絡をとろうとしていたらしい香穂子の名前が並んでいた。
…言ったほうがいいのかしら。
事前に話しておけば、ショックは軽い…かもしれない。
だが、何と言えばいいのか。
…香穂子が彼と別れるとか、もう終わっていると言う度、それは嘘だと流していた。
それは…香穂子が彼に未練がありそうだったからでもあるが、何より…彼はまだ香穂子を愛しているのではないか、と思ったからだ。
二人の事は高校からずっと見ていた。
ある意味、取材対象として、香穂子よりも客観的に彼を見ていたから分かる。…彼がどれ位香穂子を愛しているのか、を。
だからこそ、こんなもの嘘だと思う。
あのあと、この記事と写真を撮った記者に出まかせを書くな、と怒鳴り込んだ。
『…確かに本人に確かめた訳じゃないですよ。…取材嫌いで有名な人ですから、俺達なんて相手にしてくれないだろうし』
スクープを取って気をよくした気持ちを害されたからか、その記者はむっとしながら反論した。
『だからって…こんな事、後で名誉毀損で訴えられましてるからっ』
天羽はばんっとその本を叩いた。
『そんな事ないでしょう?それは合成でもなく実際にあった事なんですからね』
『…』
天羽はその状況を見ていないから、なにがあってそんな状況になったのかは分からない。…だが、これは彼の本意の記事ではない。
とはいえ、明日には発売され、こうして本として作られてしまった以上、何も出来ない。だが、それでもダメもとで天羽は尋ねた。
『…この記事、差し替えられないの?』
『そんなの無理ですよ』
記者はきっぱりと答えた。
『もう既に出来てしまっていますから』
居丈高にそう言われ、天羽は思わず舌打ちしてしまった。
そして…これからどうしよう、と考えている時、私用の携帯が鳴った。
「もしもし?」
イライラしながら電話に出ると、相手は呆れたように話し出した。
『…何いらっとしてるのよ?』
「か、香穂子?」
それは、今、天羽が頭を悩ませていた原因の一人からだった。
『最近電話しても出なかったでしょ?』
「ご、ごめん携帯を会社に置きっぱなしで出張に出ちゃっていたから…」
言い訳がましくそんな事を言うと、香穂子はクスクスと笑った。
『相変わらず仕事の虫なのね』
「はいはい。それはあんたも同じでしょうよ」
『…それは言わない約束。それより、ちょっと天羽ちゃんに尋ねたいというか、文句を言いたい事があって』
香穂子が僅かに怒気を孕みながらそう言うのを、天羽は思わずどきっとして聞いた。
「な、何?」
『学生時代の写真。学院にたっぷりネガを置いていってない?』
「…え?あ、ああ…ネガ?」
天羽は思わずおかしな声をあげた。
…とりあえず香穂子の電話はこの記事の話ではないようだ。
それを安堵しながら、天羽は香穂子に尋ねた。
「部室に置いてあったネガの事?」
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