長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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とりあえず話す事を話し、…香穂子は肩を落として帰っていった。
その様子に、天羽は胸が痛くなったが、これ以上はどうしようも出来ない。
後は香穂子が…蓮と二人で決める事だ。
…出来れば上手い方向にいって欲しいと願うが。
「天羽さん」
香穂子を見送ってしばらくしたあと、加地が声をかけてきた。
「…よく調べてきたね」
「あははっ、大事な香穂子の為だもの」
天羽はからり笑いながら言った。
「あの子も不器用だからね…好きなのに、…まだ月森くんを好きなのに、無理に押さえ込む必要はないのに、さ」
「そうだね…」
「まだ香穂子を好きな加地くんには悪い事してるなって思うけど」
天羽がさらりとそんな事を言うと、加地は目を丸くした。
「い、いやっ、確かに日野さんに憧れていたけどさっ、今は…いや、憧れは今もだけど…ってそうじゃなくってっ!」
「あははっ、はいはい。加地くんは永遠のヴァイオリニストの香穂子のファンって事でしょ?」
「そっ、そういうこと!」
加地は大きく頷いた。
「…僕の話はともかく…」
加地は息を整えるように深呼吸したあと、天羽の前に座りながら言った。
「二人の事は真剣に考えないと…」
「香穂子にはこれ以上何も出来ないし…後は月森くんなんだよね…」
天羽は難しい顔をしながら言った。
「日野さんに、今分かっている事を話した事と、…それが本当の事だって確証を取る事、だよね?」
「うん、そう…問題はそこなんだよね…」
いつ、どのタイミングで言うか。
「…天羽さんは、学院の子達の大会に来れる?」
「?ああ、全国大会に出てるっていう、アンサンブルの…あれ?…準決勝の日は取材が入っているから無理なんだよねぇ。決勝は無理矢理休み入れたけどさ…」
天羽が残念そうに言うと、加地は苦笑しながら手を出した。
「じゃあ、さっき日野さんに渡していたあれ、僕に預けてくれる?その日…月森と会うからさ、僕から聞いてみる」
「…本当?」
「うん。その日さ、何だか話のノリで月森と土浦と三人で、僕のマンションで飲む事になってるんだ」
「…何、その面白いメンツは」
天羽が目を丸くしながら尋ねると、加地はクスクス笑いながら答えた。
「ん?月森が何だか土浦に頼み事をしていたらしくて、それのお礼をしなきゃって言ってたんだ。だから…月森のおごりでのもうって話になったんだ。まあ、その日は花火大会でしょ?だからうちのマンションで花火見ながらって事で」
「…男三人で?」
「仕方ないでしょ?土浦は冬海さんを絶対に連れてかないって言ってるから、花はないけどさ。…まあ、月森に奢らせるのを理由に、色々と話を聞く理由をつけたかっただけだしね」
…この問題がなくても、加地は加地なりに動こうと考えていたのだ。
「だから…その時に聞いてみるよ。…色々と、ね」
くだけた席なら、蓮であっても口を軽くするかもしれない。
「うん、…じゃあ、月森くんのほうはお願いします」
天羽はそう言いながら、加地に先程香穂子に渡したものと同じ書類を渡したのだった。
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