長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(2)Side律×かなで

香穂子達が部屋を出ていった後、かなでは持っていた楽譜を眺めて、自分達に合いそうな楽譜を選んでいた。
そして、いましがたの二人の様子を思い出していた。
…ほんの少しまだぎこちない所はあったが、やはりあの二人が二人でいるのを見ると、ほっとする。
やっぱり昨日感じた勘は正しかったんだ、とかなではぼんやりと思った。
…こういう直感的な事は、説明するのが難しい。
だけど…昨日見た香穂子と誰か、とか週刊誌のあの蓮の写真はどう見てもかなでには違和感を感じていたのだ。
…恋人として、パートナーとして隣に立つ人とは違う。その相手が香穂子なり蓮なりに想いを寄せていたとしても、違うものは違う。
それはかなでの直感だけでしかないが、…今日二人を見て確信した。
「…上手くいけばいいのになぁ」
自分の事は考えず、他人の心配ばかりしていると、不意に背後から声がかけられた。
「何が上手くいけばいいんだ?」
「え?わ、わわぁっ、り、律くんっっ?」
かなでの驚きっぷりが異常な程で、律は思わず顔をしかめた。
「そんなに驚かせる事をしたか?」
「え?だってびっくりするわよ、急に後ろに人がいるなんて」
「結構大きな音をたてて部屋に入ったんだが…気付かなかったのか?」
準備室の入り口は、建物が古いせいか、開ける時に独特の音を出す。
だから、誰かが出入りすれば、分かるものだが。
「あー、ごめんなさい。ちょっと考え事していたから気づかなかったのかも」
「…考え事?」
「さっき日野さんと月森さんがここにいてね…」
かなでは律にここであった事を話して聞かせた。
「…て事があったの」
「…そうか」
だが、律の反応は薄く、かなではがっかりした。
「それだけ?」
「それだけとは?」
かなでの言う事が理解できないでいる律に、かなでは小さくため息をついた。
「…まあ律くんにこんな話を振るほうが間違ってたか」
「…小日向?」
明らかに呆れたような口調のかなでに、律は眉を寄せた。
「だって…気にならない?伝説のヴァイオリン・ロマンスかもしれないんだよ?」
「だからどうした?」
律にきっぱりと言われ、かなでは今度は盛大なため息をついた。
「大体、他人の事に首を突っ込んで、お前は一体どうしたいんだ?」
「た、他人だけどさ…色々お世話になっている人達の事だもの、うまくいって欲しいなぁって思うの」
「…確かにそうは思うが…」
「でしょでしょ?」
「だが、余計な首を突っ込んで、上手くいくはずがダメになったら、それこそどうするんだ?」
「はうっっ」
かなでは痛い所を指摘され、思わず唸ってしまった。
…確かに言わた通りなのだが。
かなではしゅんとしてしまった。
だが、そんなかなでの頭を、律はそっと撫でた。
「…だが、お前がうまくいくと祈っていればうまくいくかもしれないな」
「…本当?」
「ああ、きっとな。…だがその前に、やるべき事はきちんとやらなくてはな。何かいい曲は見つかったか?」
先程の甘い雰囲気はどこへやら、律は急に部長の顔になって尋ねてきたのだった。
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