長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(4)Side蓮

…この門を潜ったのはいつぶりか。
蓮は母校の門をくぐりながら考えていた。
休学がそのまま卒業になり、…単位互換があったからだが、卒業証書も親に代理で貰ってきてもらった。
だから…、二年の最後以来となる。
それまでも、短期間ではあるが、日本に帰ってきた事がある。
だけど、母校に来る事はなかった。
時間も理由もなかった、というのもあるが、何より…ここに来ると、あの甘い時間を思い出してしまうから、だ。
門の先にある妖精の像の前まで来ると、蓮は思わず立ち止まってしまった。
知るひとから見れば、それは学院に棲む妖精の姿そのままなそれを見ていると、蓮の胸はチクリと痛んだ。
…多分、俺の本当の人生は、リリと出会ってしまった事から始まったんだ、…と思う。
妖精・リリが見える者だけが参加できるという学内コンクールのメンバーに選ばれ…、ライバルと競いあった。
ライバル達はやがてかけがえのない仲間になり…。
「仲間、か」
蓮は思わず苦笑してしまった。
確かにあのあと、学内内で騒動があり、それに巻き込まれていった時、あの時のメンバーが中心となって活動した。
そういった意味では仲間…なのだが。
留学してから、初めはそれなりにお互い連絡を取っていたが、それぞれの生活があり、学生の時ならいざしらず、今では仕事などのスケジュールもあって、すっかり音信不通になってしまっていたのだ。
それは仕方ない事、と割り切るしかない。
いくら仲が良くても、いつまでも一緒という訳にはいかない。
それが嫌だとは思う事はあるが、子供のように駄々っ子をこねる訳にもいかない。
…だけど、それでも今もなお、蓮には、そんな無茶苦茶をしたかった相手がいた。
蓮の全てを変えた相手。
…今でもその名前を思い浮かべると、切なくなる、今も愛している女性。
なぜか突然連絡が疎遠になり、いつの間にか思い出になってしまいそうな、そんな相手。
…ここに来ると、どうしても彼女との思い出が色鮮やかに思いだされ、…それがどうしても嫌で、ここに来たくなかった。
「…今の俺達を、リリが見たらどう思うのだろうか」
歎くだろうか、戸惑うだろうか。…それとも、そんな事もあるのだ、とカラリと笑うか。
今はすっかり見えなくなってしまった、リリの姿を思い出していると。
「ここで一体何をしてるのだ?」
背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには普通科の制服を着た、髪の長い少女と、ふんわりとした雰囲気の音楽科の制服を着たボブの女の子が、蓮を見ていた。
「…君は?」
…確かに怪しい人間に思われても仕方ないか。
そう思いながらも、やはり人に名前を尋ねる時はまず自分から、という鉄則を守ってもらおう、と尋ねると、普通科の少女が、笑顔を浮かべながら答えた。
「私は星奏学院二年の支倉という。確かここのOBの月森蓮氏、だよな?」
ニアは蓮が不信に思うのも構わず問い掛けてきたのだった。
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