長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「…お前、気付いていたのか?」
「まあね。というか、お前が鈍感すぎなんだよ。自分自身の事にも、…響也の事にも」
「…」
大地の指摘に、律はうっと唸った。
「まあ、目標を決めたら猪突猛進なのはお前らしいけどさ…、せめて弟の気持ち位気付いてやれよ」
「…」
「まあ、そんな事お前には無理だとは思うけど。…ただ…ひなちゃんの側に誰よりも、お前よりも響也がいたんだって事は忘れるなよ?」
「…ああ」
「ま、今回の事に関しては、三人に三人なりの理由も原因もあったんだから、自分達でなんとかしてくれ。…こういう事は、俺やハルには誰の手助けも出来ないし、しちゃいけないしな」
「…」
「ただ、今日一日は、お前も響也もひなちゃんに近付くのは禁止な。…一日寝て、頭を冷やして、よく考えたほうがいい」
「…分かった」
律は少し不満はあったが、大地の言うことももっともだったので、素直に従う事にしたのだった。


かなでが東金に連れられて帰ってきたのは、それから1時間程経ってからだった。
「すまないね、東金」
迷惑をかけた事を大地が謝ると、東金はニヤリと笑いながら答えた。
「いや、コイツに聴いてもらうのは、いい練習になったし、それに、あの如月の意外すぎる面を見れて…って、あいつは?」
「ああ、今、自分の部屋で反省中」
「なんだ、弟と恋愛沙汰で揉めるなんて武勇伝を作った奴の顔を拝んでやろうと思ったのに」
東金は不満げに鼻を鳴らしたが、じゃあ、それは明日の楽しみに、と自室に戻っていってしまった。
「…少し話をしようか?」
大地はそれを見送ると、かなでに言った。
そして、ふたりは食堂に向かった。
「おかえり、小日向ちゃん」
「おかえりなさい、小日向さん」
食堂には土岐と八木沢が待っていて、二人を迎えた。
「他の奴らは部屋に戻って、ハルも帰ったよ」
大地は苦笑しながらかなでに言った。
内容が内容だけに、土岐達はなんとなく理由は分かりつつも、何も聞かなかったのだが、ハルだけはそうはいかず、『どうして二人はそんな事になったんですかっ?』と詰め寄ってきたのだ。
それは仕方ないとは思ったが、『兄弟の間の問題で、俺達がどうこうできる問題じゃない。響也を信じてろ、…は通じないかもしれないが、律は信じて、大丈夫だと思っていてくれ』と、大地は説明にもなっていない事を言って、ハルをなだめ、家に帰させたのだ。
「…すいません、皆さんに迷惑をかけて…」
かなでは椅子にちょこんと座り、頭を下げた。
「いやぁ、小日向ちゃんが悪い訳やない…まあ、派手に兄弟喧嘩しよって、びっくりしたんやろ?」
「二人とも反省しているみたいですよ?だから…明日位には謝りに来るかもしれませんね」
八木沢はそう言って、団子の乗った皿をかなでに渡した。
「今日時間があったんで作ったんです。甘いものを食べれば、少し落ち着くかもしれませんからどうぞ?」
「ありがとうございます」
かなでは好意を素直に受け取り、団子を口にしたのだった。
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