長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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甘いものの効果は覿面で、かなでは心が少し緩やかになった気がした。
「美味しいです」
かなでが笑顔で言うと、八木沢もニッコリと笑ってこたえた。
「それはよかった」
「ほな、あとはよろしゅう、榊くん」
「ああ、今日は何かとすまなかったな」
「では、僕たちは失礼します」
土岐と八木沢も自室に戻り、食堂にはかなでと大地が残った。
「…話は二人から大体聞いた」
大地はかなでの様子を伺いながら言った。
「響也の暴走は…もしかしたら、って危惧していたけど…」
「…大地先輩は気付いてたんですね、響也の事」
大地の言葉に、それを感じたかなでが尋ねると、大地は小さく頷いた。
「…薄々、ね。でも、こういう事をするまでは考えてなかった。ただ…今日のミーティングに出て来なかった時、少しだけ嫌な予感かしたんだ」
大地は冷蔵庫から麦茶を取り出し、自分とかなでの分をコップに注いだ。
そして、それを渡しながら話を続けた。
「ミーティングに行く少し前に、俺は響也と一緒にいたんだ。ただ、俺は少し用があって、響也が先に行ったはずで…、ハルから帰った話を聞いた時、少しだけ嫌な予感がしたんだ…。それまで普通に過ごしてた奴が、いきなり体調不良で休むって言い出したからね」
「…それって…」
「うん、多分ひなちゃんが思っている通りだと思う」
今日、準備室でかなではほんのり甘い時間を律と過ごしていた。…それをもしかしたら、響也は目撃してしまったかもしれない。
…どんな気持ちで自分と律を見ていたのだろう。
響也の気持ちに気付いたいま、かなでの心中は複雑だった。
もし、自分がそんな所を見てしまった立場を思えば、…たまらない。
「…まあ、響也の気持ちも分からないでもない。でも…それについて、ひなちゃんが気にすることはない。…律も」
「でも…」
「じゃあ、ひなちゃんは響也の気持ちを知って、響也の気持ちを受け入れられる?」
「それは…」
「出来ないよね?…ああ、ひなちゃんを責めている訳じゃない。…人の気持ちはどうしようもない。これがもし…ひなちゃんが誰も意中にいなければ、俺もお節介しただろうけど…ひなちゃんは律が好きだから、ね」
「…そこまで気付いてたんですね」
かなでは思わず苦笑してしまった。
ばれていないとは思わなかったが、はっきりと言われたのは初めてだったからだ。
「ははっ、多分気付いていないのは、律本人だけだと思うよ」
大地は苦笑しながら、かなでの頭を軽く撫でた。
「いま…ひなちゃんが出来るのは、二人と仲直りすることと…響也にしっかり引導を渡す事。半端な同情はダメだよ」
「…はい」
かなでは神妙な面持ちで頷いた。
響也の気持ちが分かっても、自分の気持ちを偽ったた答えを出してはいけない。…結局それがいずれ自分自身も…律も響也をも傷つけてしまうから。
もっと大人なら、偽る事もうまく出来るかもしれないが…かなでは高校生なのだから。
「…と、お説教はここまで。とりあえず今日はその甘いものを食べて、ゆっくり眠ったほうがいい」
「はい…」
かなではそのお団子を食べ、何も考えずに眠る事にしたのだった。
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