長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
243ページ/260ページ

(4)Side律×かなで

盛大な兄弟喧嘩のあった翌日、かなではまだ心の整理がついていないからか、律からも響也からも避けるようにしていた。
アンサンブルでの練習は保留になっていたし、今は個人での練習を優先させようという感じになっていたので、…問題はない。
が、この状況に律は焦りを感じていた。
…当たり前のようにかなでが側にいたのは、彼女がそうしていてくれた事を思い知る。
律は自分の気持ちに気付いたのがつい最近であったこともあるが、かなでに対して側にいる意識をしたことがない。
意識しなくていいほど、かなでが近くにいる事が当たり前だったからだ。
…ほんの数ヶ月前は隣にいなかったのが当たり前だったのに。
今では『当たり前』なんて傲慢に思ってしまう位側にいる。
「…今更そんな事に気づくなんてな」
律は思わず苦笑してしまった。
再会するまで、ずっとほったらかしだったくせに、自覚した途端、かなでを独り占めしたい、そんなかなでにはいい迷惑な事を考えてしまうのだから。
そんな自分の都合で彼女を振り回すような自分が情けない。
「…何が情けないんだ?」
「…え?」
横からいきなり声をかけられ、律は驚いてそちらをみると、大地が呆れたように立っていたのだ。
「…大地か、何だ?」
「何だ、じゃないよ。まったく、ここまできたアンサンブルを自ら壊しかけているくせに、そのあとどうしたんだか心配なんだよ」
「…すまない」
律が申し訳なさそうに言うと、大地は深くため息をついて頭を抱えた。
「…その様子だと、ひなちゃんだけじゃなく、響也とも話し合っていないのか?」
「…」
大地にずばずばと言い当てられ、律はバツが悪そうに視線を逸らした。
かなで、だけの問題ではない。
そもそもの原因である響也との問題こそ、早く解決しなくてはならない事態だろう。
だが、解決しようにも出来ない理由があったのだ。
「…仕方ないだろう?響也と顔を合わせていないんだから」
律が冷静に話し合ってみたいと思っても、それ以前の問題で、昨日のあの事件以来、響也とすれ違ってすらいないのだ。
…響也は明らかに律を避けている。
「あれ?学校内にはいるだろ?さっき少しだけだけど練習一緒にしたし」
「…そうなのか?」
「…まあ、お前も響也と顔を合わせるのに抵抗があるのは分かるけどね。響也だって同じ気持ちだろうし。だけど…、二人がのんびりわかりあうのを待つなんて余裕、今の俺達にはないんだからな?」
親友の悩みは分かるが、それに同情していられるほどの余裕は、今のアンサンブルチームにはない。二週間後には決勝が控えているからだ。
「…分かっているさ」
律は力無く答えた。
だが、今の律にはかなでにも響也にも会って話す気持ちの余裕はない。
「まったく、似た者兄弟だな、君らは」
大地がやれやれといったようにため息をついた。
やはり響也も同じ事で律やかなでに会うのをためらっているようだ。
「…とにかくこれは他人が立ち入る事じゃないからな」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ