長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
25ページ/260ページ

蓮が分析をしているうちに、二人の演奏が終わり、次の三人が登場した。
「…あれは…」
その中の一人、唯一の女の子を見て、蓮は軽く驚いた。
その女の子は、先程校門前で見かけた子だったのだ。
「…やはりヴァイオリンだったか」
もっている雰囲気が香穂子に近いような気がして、少し気になっていた女の子だったので、その演奏が気になった。
ヴィオラとヴァイオリン二台のトリオのようだが…、ヴァイオリンの少年の粗削りだが勢いのある音に興味を持った。
「…この学院の生徒にしては珍しいかもしれないな」
校風なのかもしれないが、蓮の知る限り、どんな楽器を専攻していても、あまりガツガツとしない、優雅な演奏をするものばかりだった。
土浦はあれで意外と情感たっぷりな演奏をしていたし、火原も元気はあったが、感情剥き出し、という程ではなかった。
だけど、彼の演奏は何か挑発的というか…、誰かに挑んでいるような、そんな音楽を奏でている。
そして、それをフォローするかのヴィオラの音色。
彼が上手くバランスを取り、暴走しかねない彼の演奏を上手く舵とっているように聞こえる。
制服からすると、普通科のようだから、本格的にヴィオラをやっている訳ではないだろうが、それなりの技術があるようだ。
「…リリが喜びそうなタイプだな」
きっと今頃どこかでこの様子を見ているだろう、この学院に棲む妖精を思い出し、蓮は苦笑した。
「しかし…ヴィオラはああいう調整役が適任なのかもしれないな」
そう思いながら、蓮はもう一人のヴァイオリンに注目した。
だが、どうも音が引っ込んでいるようだ。
二人の間で埋もれてしまう音をなんとか拾いながら聞くと、技術は高い。
それに、ヴァイオリンが本当に好きだというような音を奏でている。
それは…香穂子に通じるものがあった。
それは技術だけでない、限られた人物にしかもちえない才能。
彼女はまだそれに気づいていないのだろうか、それとも、何かしらの事情があって、その力を抑えているのだろうか。
それは勿体ないような気がする。
そして、彼等の奏でる音楽に、蓮は興味を持った。
高校生という年代は、過ごし方一つで様々な変化をもらたしてくれる。
だから、彼等がどう変化していくのか、それを見ていきたいと思った。
「…理事長の申し出を受けてみる、か」
自分が誰かを教える、というのは大変だが…、彼等を間近で見れる魅力と比べれば…たいした事ない。
「…それに、いい口実ができたし、な…」
蓮はそっと講堂の外に出た。
そして、どんよりと雨の降り出しそうな空を見上げながら思った。
…どんな理由であれ、香穂子と再会できるチャンスができた、と。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ