長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
252ページ/260ページ

響也が提案した事にかなでは小さく頷いた。
「うん、私も…少し話したいと思ってた」
「そっか…じゃあ、少しだけ外に行くか?」
「そうだね…」
かなでは響也の提案に頷いた。
こういう話をするのは、狭い部屋よりも広い外で。
「…」
「…」
だけど、二人は歩きながら会話することが出来なかった。
そして、それは外に出るまで続き、二人で玄関を出るまで続いていた。
…ほんの少し前まで、犬のコがじゃれあうようにしていたのに。
かなでは響也との間に見えない壁を感じていた。
と、その時、上から聞こえていたヴァイオリンの音色がソロから二重奏になった。
「…あ」
かなでは思わず上を向いた。
気持ち良く奏でていた音に寄り添うようにもう一つの音が寄り添うように重なっていく。
「…」
「…」
二人はその音色をしばらく聴いていた。
…始めは重なり寄り添い…ばらばらだった音色がやがて溶けて一つになっていく。
「…すげえな」
響也はぼつりと呟くように言った。
「技術もだけど、二人の息もぴったりだ」
「そうね…」
かなではこの音色が誰のものなのか分かる。
…きっとあの二人なら大丈夫。
そう思いながらも、二人の心がこの音色のように重なる事を祈らずにはいられなかった。
「…本当はさ」
「…え?」
不意に聴こえたその言葉に、かなでは我に返った。そして、響也のほうに顔を向けると、響也は空を仰ぐようにしながら、話を切り出していた。
「本当は俺…この音色みたいに、お前と寄り添いあえたらって思ってた」
「響也…」
「周りは俺達を二人一緒に見ていたし、…律がいなくなった後は、特にそういう節がいつもあったし…俺自身も何となくだけどそうなるんだろうって根拠もなく思ってた」
「…うん」
かなではその言葉に小さく頷いた。
それはかなで自身も感じていた。
…多分あのまま田舎にいたら、その流れのままに、響也と何となく付き合って、今とは違う幸せの中にいたのかもしれなかった。
そして、転校してくる前は、律と再会しても、その雰囲気は変わらないと…思っていた。
「だから…変な自信があって、こっちに来てもそれは変わらないと思っていた」
「…うん私もそう思ってた…だけど…」
「ああ…、お前はそんな不安定な絆よりももっと確かなものがあるって事に気づいちまったんだよな」
響也は自嘲するように笑いながら言った。
「…」
「でも、それにお前が気付く前に俺が先に分かっちまって…、だから…、焦ってた。すまん」
「…ううん」
響也の謝罪が一昨日の事だと分かり、かなでは首を横に振った。
「確かに響也がしようとした事は本当は許しちゃいけない事なのかもしれないけど…でも…私もいけない所があったから…」
「…かなで…」
まさかそんな話になるとは思わなかったのか、響也は目を丸くしながらかなでを見つめた。
「響也の気持ち、私、無意識にでも利用していたんだ。…本当はそんなつもりも無かったし、それに気付いたのは、本当にあれがあった後なんだけど…」
「…じゃあ、今は気付いたんだな?自分の気持ちがある相手の事…」
響也はまっすぐかなでを見つめながらそう尋ねた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ