長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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2.離れた距離、近づく距離

(1)Side律×かなで

肝心な時にポカをする。
以前響也にそんな事を言われ、
呆れられた事がある。
最近は大丈夫だ、と言ってきたはず…なのに、今日という日に寝坊してしまったのだ。
しかも、響也からの電話で起きるという、なんとも恥ずかしい失敗だ。
今日は東日本大会の抽選会。
選抜メンバーは必須で会場に行かなくてはいけないのだ。
だが…かなでが会場に着く頃には、抽選会が終わってしまっていた。
「す、すいませんでしたっっ」
律や大地、ハルに謝ると、怒られ…る事はなかった。
逆に
「巻き込まれて怪我しなくて良かったですね」
と安心したように言われた。
「…へ?」
「会場に行く道すがら、前を歩くおばあさんが転倒したので助けたりして遅れるらしいって、響也先輩が言ってましたよ?良かったですね、おばあさんの転倒に巻き込まれなくて」
「あー、う、うん」
かなでは曖昧に頷いて、遅刻は遅刻だから、と三人に改めて謝罪した。
そして、少し離れた響也に近づき、ありがとう、と伝えた。
「何だか言い訳までしてもらっちゃったみたいね」
「ま、寝坊なんて言ったら、ハルからのカミナリが恐いからな」
響也はニヤリと笑いながら答えた。
確かに生真面目な後輩は、寝坊して遅刻だのサボりだのとは縁がなさそうだし、時間にルーズなのも許さなさそうだ。
「それより、…あれが俺達のライバルだ」
響也は指を指しながら言った。
そこには男子数人が立っていた。
一番背の高い少年は眉間に傷があり、印象が恐い。
「…あれは仙台の至誠館高校だ」
かなで達の近くまで来た律が教えてくれた。
「去年は活動停止だったが、今年の大会は参加するようだな」
「活動停止って…一体何をやらかしたんだ?」
律の物騒な説明に、響也が眉を寄せながら尋ねた。
「詳しくは知らん。…部員が問題を起こした位にしかな。だか…俺達一日目の中では最大のライバルと言っていい実力がある」
「…つまり、あの至誠館の撃破が僕達の絶対条件、という訳ですね」
「ああ。ただ、他にも一日目には有力校がひしめいている。至誠館だけにとらわれて気を抜くのは考えるな」
ハルの質問に、律は力強く頷いた。
そして、ちらりと別のほうを見ながら言葉を続けた。
「だが、ある程度どんな音楽を演奏をするのか分かっているだけ、いい。…天音のように、その力が分からないところとぶつかるよりは、な」
「あまね…?…ってあれはっ」
響也が律の視線を追い、その先にいる人物を見て驚いたように目を丸くした。
かなでもまた、そこにいる人物に驚いた。
「なんだ、お前達冥加伶士を知っているのか?」
「知っているもなにも…」
「…」
かなではこの横浜に来て間もなくの事を思い出し、小さくため息をついたのだった。

それは、練習を終え、偶然帰りが一緒になった響也と楽器店に立ち寄った時の事だった…。
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