長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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ハルは不安げに言った。
昨日は個別の練習だけで、三人がどうしたのかを確認することができなかった。
だから、このアンサンブル練習で顔を合わせたらどうなるか、予想がつかなかったのだ。
「何とかなるだろ?」
大地はだが、そんな呑気な事しか言わない。
「榊先輩は心配じゃないんですか?三人があんな状態なんて、アンサンブルに影響出ない訳ないでしょう?それに…」
ハルは僅かに眉を潜めながら言葉を続けた。
「…三人がいつもの三人みたいでないというのが…僕にはもどかしいんです」
律はいつだってクールに皆を見つめ、響也もそんな兄につっかかり、かなではまったりとそれを見ている。
昔馴染み故の三人にしかない空気が…悪い意味で変わってしまう事をハルは心配しているのだ。
「ハルは優しいね。三人を心から心配してる」
そんなハルを見ながら、大地は笑顔で言った。
「茶化さないでくださいっ」
「ははっ、からかってないよ?ハルはいいコだなぁって本当にそう思っただけだから」
「だからそういうのはやめてくれませんか?子供じゃないんですからっ」
「はははっ、ごめんごめん。そういうつもりじゃなかったんだけどね」
大地はハルを宥めるように言った。
「ハルが響也をそんなふうに心配するとは思わなかったからさ」
「心配しない訳ないじゃないですかっ、仲間なんですよ?」
「そうだね、仲間だね」
「そう思うなら…」
「だから俺は心配しない。三人なら大丈夫だって。これ位でどうこうなってしまうような脆い絆じゃないって…」
「それは…」
「ハルみたいに心配するのが悪い訳じゃない。それも仲間だからだしね。ま、これも考え方の相違ってやつだ」
「…」
ハルは大地の言葉に少し納得したような、だが納得出来ないような、そんな複雑な表情を見せた。
「ま、心配するもしないも俺達が勝手にしている事だ。あいつらが結論を出すのを待つしかない」
「…ですね」
いくらハルが心配しても、三人が動かない事にはどうしようもない。
特に今回のような問題は、他人が間に入る事で余計に複雑になってしまうかもしれないのだから。
だからこそ、余計にもどかしいんだけど、とハルが考えていると、音楽室のドアが少し乱暴に開き、噂の響也がひょっこりと顔を出した。
「あれ?律の奴まだ来てないのか?」
「ああ、ひなちゃんもまだだけど…」
「かなではちょっと遅れるってさ」
響也はそう答えながら、大地達に近寄り、ヴァイオリンの準備を始めた。
「…ひなちゃんの事を知ってるって事は、今までいっしょにいたのか?」
「ああ、ちょっくらフラれてきた」
「フラれて?…って響也先輩?」
「…かなでと決着つけてきた。ああ、一応その前に律と話ししてきたし。悪いな、心配かけたか?」
「あったりまえです!あんな事ガタガタしとして心配しないわけないじゃないですかっ!」
「あー、悪い悪い…って俺だけのせいじゃねーじゃん!」
ハルと響也がそんな事を言ってじゃれあうのを見て、大地はクスクスと笑った。
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