長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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〜Side律&かなで


――三年前。

かなではプリントを受け取りに、職員室に行くと、偶然律と鉢合わせとなった。
「…律くん?」
律は少し気まずい様子でかなでから視線を逸らした。
「…」
そして、かなでを無視するかのように、職員室を出ていってしまった。
その後ろ姿を見て、かなではため息をついた。
一週間程前、律の進路を聞いてから、こうなのだ。

『…なん…だよ、それ?』
その話を聞いて、かなでも響也も目を丸くした。
そして、ようやく口にできたのは、そんな言葉だった。
『なんで今まで黙ってたんだよ?!』
響也は律に詰め寄った。
だが、律は至極冷静な様子で答えた。
『俺の進路の事だ。考えた末に出した結論なんだ』
『…ってそういう事じゃなくって!星奏に行くって事は、この街から通えない、つまりここを出ていくって事だろ!そういう事なら、相談ってもんじゃなくても、一言あっても良かったんじゃないのか?』
…俺達は兄弟なんだぜ?
響也の声にならない言葉が、かなでには聞こえてきたような気がした。
だが、その言葉は律には届いていないようで。
『…決まるまではお前達にも言えなかった。これは俺の問題だからな』
『問題って?』
『ここは…あまりにも狭い。俺はここから出て、自分の世界を広げ、ライバルとなるような奴らと競い合いたい』
律は真っすぐ何かを見据えるようにしながら、きっぱりと言った。
だが、その一言は、響也の逆鱗に触れてしまったのだ。
『なんだよ、その言い方?俺達じゃライバルにすらならないってか?』
『…そうだな。今はお前達以外の奴らと競い合いたいんだ』
『そうかよっ』
響也はかっと顔を真っ赤にしながら、怒鳴るように言った。
『だったら横浜でもどこへでも行っちまえっ!お前なんかもう知らないからなっっ』
『響也!』
かなでは焦って響也を止めようとしたが、男の子のスピードにのんびり屋のかなでが追いつく訳がなく、響也はかなでの制止を振り切って行ってしまった。
『…まったく、落ち着かない奴だ』
律はそんな響也を見ながら、呆れたように言った。
だが、響也の言い分も過分にわかるかなでは、悲しそうな瞳で、律を見つめながら言った。
『…律くんがいきなりいなくなるから…ショックなんだよ…』
『響也が?』
少し意外なのか、律が目を丸くした。
たしかにかなでもよく見ているが、響也は反抗期なのか律にくってかかっている。
だけど、それは愛情の裏返し、というのもかなではよく分かっている、…のだが。
肝心の律には気付いていない。
それについてはどっちもどっちなのだが、このすれ違いはどうにかしなければいけないと思った。
それに、かなでだって響也と同じ気持ちだ。
…律が自分達の側がいなくなるのが寂しい。だから、行かないで。
でも、かなでには言えなかった。
律はこうと決めたら、それを叶える為に真っすぐに進む。それは、誰が何を言っても変える事は出来ない。
だから、律はなんとも思わないだろうが、せめて一言位は言っておきたくて。
『私も…寂しいよ?律が側からいなくなるの』
涙を必死になって堪えならが言った。
側にいさえすれば、いつか自分の気持ちに気付いてくれるかもしれないと思ったけれど…。
『かなで…』
律は何かをいいたげにかなでを呼んだ。
だけどそのあと、律は何かを振り切るかのように、かなでから視線を逸らし、どこかに行ってしまった。
そして今まで、不自然な位律との接点がなくなり。

かなでがどうにかして律ともう一度話をしたいと考えている間に。
…律はそのまま星奏学院へと進学してしまったのだった。



そして月日はそれぞれに等しく流れ……。


熱い夏が始まった。
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