長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(2)Side蓮×香穂子

とりあえず話を引き受けたはいいけれど、どんな事をすればいいのか。
それを相談したいと言ったら、理事長は今日来て欲しいと言ってきた。
だから香穂子は学院まで来たのに。
理事長からの答えは
『君に任せる』
だった。
「そんな、無責任な。個人でいいのか、何人かで教えるのか、実技を教えるのか、そういうのを具体的にですね…」
「今年、特に今学期はそういった事も試行する期間なのだよ。何せ急に決まった話だし、講師をかき集めるのが精一杯でね。それに、講師の個性で、どんな授業をするのか、などを決めていくのが、お互いのメリットになると思う。そのプロセスなどは随時相談してくれてかまわない。ただ、忙しいと思うが、この夏休みの期間である程度決めてくれ」
「…分かりました」
学院のマキャベリストに反抗しても無駄な事は、学生時代から知っている。
だから、香穂子はこれ以上バタバタするのは止めようと考えを出し、別の話を切り出す事にした。
「あのー、それで私以外のこの講師って…誰がいるんでしょう?」
「…話していなかったか?」
「はい」
…本当はわざと話してくれなかったんじゃないの?とは流石に言えず、香穂子は努めて冷静に気持ちを落ち着けるように尋ねると、理事長は無機質な声で答えた。
「…大体は君よりいくつか上だから、知らない人のほうが多いかもしれないな。…ああ、まだ正式な承諾は受けとっていないが、君の知り合いが一人いたな」
「え?誰ですか?」
「月森くんだよ」
「…え?」
理事長の答えに、香穂子は思考が固まってしまった。
「最近日本に帰ってきてね。しばらくは日本と海外を行き来するという話だから、無理を承知で頼んでみているのだよ。…まあ、彼が了承してくれれば、こちらとしてもありがたいのだけどね」
「…」
香穂子は呆然とその話を聞いていた。
だが、そんな香穂子の様子を無視し、理事長は話を続けた。
「今年の夏休みはオケ部で大きな大会があってね。なかなかいい素材が集まったと報告があって、いい結果が来そうだという。まあ、正式な指導でなくていいから、君の時間がある時でいいから、彼らの面倒も見てくれないか?もしかしたら、その中に君の迷いの答えが見つかるかもしれないしな」
理事長はそこまで言うと、これから来客などがあるから、と香穂子を体よく部屋から追い出したのだった。
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