長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
33ページ/260ページ

大会の詳細やアンサンブルについては、資料が音楽準備室にあるはずで、詳細はオケ部の生徒に聞いてくれ、ということだったので、香穂子は準備室までやってきた。
ただ、やはり理事長に言われた通り、今日は大会の抽選会という事で、オケ部のメンバーはほとんどおらず、香穂子は仕方ないので準備室にあると思われる資料を探す事にした。
窓を開け、空気を入れ換える。
新鮮な空気が香穂子の肺に送りこまれると、理事長の先程の話が再び頭を過ぎった。
…まだ了承は得ていないが、彼にも打診している。
…了承、するのだろうか。
蓮の活躍は、同じ仕事をしていれば、嫌でも耳に入ってくる。
海外を中心に活動していることや、コンサートやらなにやらで引っ張り凧だという事や。
そんな忙しいあの人が、理事長の気まぐれに付き合うはずはない、と香穂子が考えていると。
準備室のドアが開いて、かなでと律が部屋の中に入ってきたのだった。

同じ頃、理事長に蓮がやってきた。
多忙な理事長のスケジュールを確認すると、この時間がいいと返事が返ってきたのだ。
ドアをノックし、部屋の中に入ると、理事長がいつもの気難しい顔で迎えてくれた。
「昨日の返事をしに来てくれたのかね?」
「はい」
「…それで?」
「自分に務まるかどうか分かりませんが、出来る範囲でお手伝いさせていただきます」
蓮がそう返事をすると、理事長はほっと息をついた。
「そうか。君の活躍に期待している」
「…ありがとうございます」
蓮がそう返事をすると、理事長は何か考え事をするように押し黙った。
そして。
「…分かった。君のそのお節介が余計な事にならなければいいがな」
そんな独り言を呟くと、蓮に向き直った。
「アルジェント・リリから、君に伝言だ」
「…リリから、ですか?」
懐かしい名前を聞いて、蓮は驚いた。
理事長は学院創設者一族だから、リリが見えると聞いた事がある。
と、いう事はリリはここにいるようだ。
だが、それよりも蓮が驚く事を理事長は告げた。
「日野くんは今、音楽準備室にいるそうだ」
「…え?」
「今、後輩に捕まっているから、急げは会える、と言っているのだがね。どうする?」
「…」
蓮は迷った。
返事をしたのだから、今日の用件の大切な部分は済んだ。
だから、このまま離席しても構わないだろう。だけど…それも躊躇われた。
…今香穂子に会ってどう話せばいい?
蓮は会いたいと思っているが、香穂子はどうなのだろうか。
先日の話だと、香穂子は蓮がこの仕事の打診を受けていることも知らないようだし…。
そんな事をウダウダと悩んでいると、理事長室のドアがノックされた。
「なんだね?」
「オケ部部長の如月です。今日の抽選会の結果と、大会の詳細をお持ちしました」
「…入りたまえ」
理事長が許可をすると、一人の少年が部屋の中に入ってきた。
彼…律を見ると、蓮は軽く驚いた。
昨日、講堂で演奏していた中で、印象的な演奏をしていた彼だったからだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ