長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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翌日、かなでは早くに起きてしまった。
心地好いトロンボーンの音色に誘われて散歩してみると、そこには至誠館の生徒がいた。
初めて聴いたその音色は、とても力強くて、かなでは息を呑んだ。
部長の八木沢を中心にまとまっている。
その音楽を聴くと…自分達はどうなのか、と考えてしまう。
これ程までに、お互い信頼しあっているのだろうか。
…自信ないかも。
そんな事を考えながら、かなでは集合時間まで練習をした。
昼に律達アンサンブルメンバーと今後について打ち合わせすることになっていたのだ。
それまで、とヴァイオリンを奏でているが、どうも身が入らない。
そんな事を考えていると。
「音が乱れているな」
不意に律が声をかけてきた。
「…そう、かな?」
「ああ。何か迷う事がある。そんな音を奏でていた。…何かあったのか?」
「…あのね。朝偶然に至誠館の演奏を聴いたの…」
かなでは朝の出来事を律に話した。

「…という事があって…」
かなでは打ち合わせの時、律に話した事を響也達にも話した。
「それは小日向だけの問題ではなく、俺達全体の課題だ」
そう言われ、かなでは納得した。
アンサンブルなら、個人の問題ではない。連帯責任なのだ。
そして、話し終えると、響也は頭をくしゃりと掻きながら言った。
「んなの問題ねーよ」
「え?」
「確かに…まあつい最近組んだばかりだし、そういう結束力なんてもんは今はないかもしれないけどよ、それはまあ、これからなんとかなるもんなんじゃねえか?」
「…」
「なんだよ、自信がねえのか?」
「そんなんじゃ…ないけど…」
「じゃあ問題なし、だろ?」
響也が笑ってそう言うと、かなでもなんとなく問題なさそうに感じてきた。
「確かに、結束力は培われてきた時間だけ、じゃありませんものね。響也先輩もたまには良いこと言うじゃないですか」
「…ハル、なんだよそのたまにってのはっっ」
「あははっ」
かなでは安心したように二人の漫才を聞いて笑った。
そして。
「そうだな、しかし…朝練か…」
律はかなでの話を聞いて、思い付いたように言った。
「…皆、いつもより早く来る事ができるか?」
「え?」
「いや…朝練というのはいい案だと思ってな…」
「…ってまさか俺達も?」
「ああ。個人の練習だけでは不足部分が分からないだろうし、一定の時間を共有し、それを話し合うのも悪くはないと思う」
「なるほどね。いいかも」
「そうですね」
律の提案に、大地とハルはすぐに賛同した。
かなでもその案には異論はない。
…となると、問題は響也なのだが、多勢に無勢。
朝起きるのが辛いとかなんだとか、そんな事は理由にならない雰囲気に、結局賛同するしかなく。
「はいはい、わかりましたよ。皆さんの熱心な練習に付き合ってやらあ」
と、仕方なさそうに頷いたのだった。
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