長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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ほわほわしているせいか、あまりそう見られないのだが、かなではなんでも熱心に取り組む。
たとえ律がくだらない、と思っていることでも、生真面目に考えているのだから、それな見習うべきところかもしれない。
それに何より、かなでの真剣ななまざしは、律をいつも捕らえて離さないような所がある。
その瞳に見つめられるのは…嫌ではない。
ただ…その瞳が自分以外の誰かを見ているのは、嫌な気分だ。
今、響也やハルに向けられているその視線を独占したい、…と思うのは我が儘だろうか。
と、そのとき。
「…だから…ってぇっ」
「いったーいっ」
話に熱中するあまり、近づきすぎた響也とかなでの額がごつっと見事な音を立ててぶつかったのだ。
「まったく、二人ともなにやってるんですか」
「あははっ、見事な音がしたねぇ」
額に手をやるかなでと響也に、ハルは呆れた、大地はからかうような事を言ったのだが…、律は何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。
額をぶつける程近くにいるのが自然な二人。
二人でいても、会話のままならない自分とかなで。
…本当に距離が離れてしまったんだな。
そんな事を考えていると、不意にかなでと視線が合った。
「お話、終わったの?」
「あ、ああ」
一瞬焦った律がどもってしまうが、かなではそれを気にしていないようで、ふんわりとした笑顔を見せながら言った。
「そっか…じゃあお願いしてもいい?さっきからみんなグルグル考えちゃってなかなか纏まらないの。だから…アドバイスだけでいいから選曲、手伝ってもらっていいかな?」
「え?ああ、構わないが…」
「わあいっ、じゃあここに座って?」
かなでは自分とハルの間にスペースを作って椅子を置いた。
「ああ、律いいなぁ、ひなちゃんの側で」
大地がニヤリと笑いながら、響也の隣に座った。
「ったく、座る場所なんてどこだっていいだろ?」
響也は大地の言葉に呆れたように言った。
「え?だってやっぱり隣に座るなら小生意気な後輩より、可愛い女の子の側かいいじゃないか」
「…悪かったな、小生意気な後輩で」
「榊先輩!不謹慎ですよっ!もっと真面目にやってくださいっ」
「いや、こういうのは変にかしこばって考えるから決められないんだからさ…」
「あははっ」
「かなでっ!笑うんじゃねえよっ」
響也がジロリとかなでを睨むが、かなでの笑いは止まらない。
「えー、なんか面白すぎるよ、ねえ?律くんもそう思うでしょ?」
「ああ…。だが大地、あまりからかい過ぎて余計決まるものも決まらなくなるといけないから、あまり響也をかまうな」
「って、かまうってなんだよっ」
「はいはい」
「て、否定しろよっ」
「あははっ」
隣でかなでが楽しそうに笑った。
そんなかなでを律がほっとしたような表情で眺めているのを、大地は見のがさなかった。
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