長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
5ページ/260ページ

そして、転校前日。
二人は最寄り駅の改札をくぐり、外に出た。
「やっぱり横浜は都会だねぇ」
駅前をぞろぞろと歩く人々を見ながら、かなでは感心したように言った。
「…お前、田舎もん丸出しみたいな台詞やめろよな?これから俺達、ここに住むんだぜ?」
一緒にここまで来た響也が呆れたように言った。
二人の住む街は、横浜からかなり離れている。
それに、お互い親戚も側にないので、学院の持つ寮に住む事になったのだ。
今日はまず学院に向かい、入学の手続きをして、寮に向かう。
荷物は既に送ってあるから、今二人は学院の制服を着て、ちょっとした荷物とヴァイオリンケースだけ持っていた。
「さて、とさくさくっと行って手続き済ませちまおうぜ?疲れたし」
「そうだね」
いくら荷物が軽くても、長旅だったのは確かで、二人は軽い疲労を覚えていた。
だから、地図を見て場所を確認するよりも、誰かに聞いたほうがいいだろう。
二人がそう思った時、二人の横を一人の女性が通り過ぎていった。
かなでは慌ててその人に声をかけた。
「あのっ、すいません。星奏学院に行きたいんですが…」
「え?」
女性は少し驚いたように振り向いた。
少し赤みがかった長い髪が印象的な女性は、かなでの姿をまじまじと見つめてきた。
「あ、あの…」
学院の制服を着ているのに、そこに行く道のりを教えてくれ、というのがおかしいのだろうか?
そう思っていると、女性はかなでの考えている事が分かったのか、苦笑しながら答えてくれた。
「ごめんなさい、懐かしい制服を見たものだから」
「…ってお姉さん、星奏の出身なの?」
響也がそんな少し無躾な質問をすると、女性はこくりと頷いてくれた。
「ええそうよ?学院を『星奏』って呼ぶのは…外部の人っぽいから、あなた達は転校生なのかしら?」
「あ、はい。…今日からお世話になります」
かなでがそう答えると、女性は嬉しそうに笑顔を見せた。
「そっか、私の後輩になるんだね。ああ、そうそう学院ね?私も用事があって行く所だから、一緒に行ってあげるわよ?」
「本当ですか?ありがとうございます」
二人は女性の好意に甘える事にしたのだった。


「にしても、よく俺達が転校生だって分かりましたね?」
道すがら、響也はそんな事を女性に尋ねると、女性はああ、と答えた。
「学院生なら学校の事、学院って言うから。…って私も友達に外部から転校してきた人がいて、その人に教えてもらったんだけど」
「なるほど」
「でも、街中でその制服のコに声をかけられるなんて、ちょっと嬉しかったかも。懐かしいなぁ、音楽科の制服」
女性は少し懐かしそうにかなでの制服をみていた。
「もしかして、音楽科だったんですか?」
かなでが尋ねると、女性は嬉しそうに頷いた。
「そう。…といっても三年生の一年だけ、ね。私は転科したから」
「普通科からですか?」
響也は目を丸くした。
専門的な事を学ぶ音楽科に途中編入するのは、どんな学校でも稀だからだ。
「あははっ、まあ、妖精の悪戯でね」
そんな響也に、女性は笑いながら答えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ