長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
98ページ/260ページ

「そうねぇ、アンサンブルなら、音楽科があまり演奏しないような楽器を実はやってました、とかありそうだしね、フムフム」
香穂子は蓮の言葉から新たに思い付いたようで、考えこむような仕種をした。
そんな香穂子を蓮は目を細めながら見ていた。
「…君は本当に音楽が好きだな」
「え?」
「そういう資質があるから、リリに選ばれたんだろうが…」
だからこそ出会えたのだ、と蓮は眩しそうに香穂子を見つめながら言った。
香穂子は戸惑いながら、その視線から逸らせるように顔を俯かせた。
「俺は…」
この雰囲気を壊したくなくて、蓮が話し掛けようとした時、蓮の携帯が着信を告げた。
「…ごめん、ちょっと」
蓮はいい感じのところをぶち壊され、不機嫌な様子で電話に出た。
香穂子はその相手に少し感謝しながら、ほっと息をついた。
…今、自分の気持ちが揺れ動くなかで、あの視線を受けてしまっては…流されそうだった。
蓮はまだ…?と都合のいい方向に考えてしまいそうになる。
…でも、そんな事をしてしまってはいけない気がするのだ。
もう…間違えてはいけない。
そんな事を考えていると、蓮が電話を終えて席に戻ってきた。
「まったく…」
蓮の少し呆れた様子に、香穂子は不思議に思って尋ねた。
「どうかしたの?」
「…知り合いが日本に来るから、案内を頼むと言うんだ。…こっちの都合も聞かないで」
「あははっ、それは大変だね。そういうの、月森くん苦手そうだし」
「…なら君は?」
香穂子の言葉に、蓮は少しむっとしながら尋ねた。
「え?」
「そうだな、こういうのは君のほうが得意そうだ。…そうだ、君に頼もうかな」
「え?だって月森くんの知り合いなんでしょ?だったら…」
「いや、こういうのは適任者がやったほうが効率がいい。日程が決まったら連絡する」
戸惑う香穂子とは裏腹に、蓮は勝手に事を進めていく。
「…月森くんって意外と強引なんだよねぇ」
香穂子は諦めたようにため息をつきながら言った。
「…」
「ま、仕方ないから、不器用な月森くんのお手伝いをしてあげましょうか」
「何故そこで上から目線になるのか分からないが…まあ、頼む」
蓮は…かなり納得いかない感じもしたが、香穂子とまた約束が出来た事に、ほっとした。
そして、講師の話や、自分達のコンサートの話をいくつか打ち合わせた。


こうして、色々とあった東日本大会が終わり、翌日からそれぞれが次の一歩に踏み出す事になったのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ