長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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3.絡み合う想い

(1)Side律×かなで

至誠館メンバーを寮に招待した翌日…、かなでは案の定寝坊寸前だった。
だが、それも仕方ないだろう。
何せ前夜、至誠館メンバーの歓迎会だとニアが言い出して、かなでの苦手な肝試しをさせられたのだ。
…しかもニアが仕掛けたくじで、律とペアを組む事になり…、色々な意味で、心臓に悪かった。
『…俺も恐いよ?』
ビニール袋が飛んできただけでびくつくかなでに、律は優しく言ってくれた。
『お前を前にして、おかしなところは見せられないからな』
そう言って苦笑する律に、かなではドキドキした。
そして、怯えるかなでの手をそっと握ってくれた。
『…こうしていれば、怖くないだろう?』
…そう言って。
思えば昔から、夜道など恐いと思うところでは、必ず律が手を握ってくれていた。
ひんやりしているけど暖かい、そんな律の手に、いつもかなでは守られている気持ちがして、安心するのだ。
『…どうだったか?東日本大会を頑張った親友に、私からのご褒美だぞ』
ニアが皆に気付かれないようにそんな事を尋ねてきたが、かなでは照れ臭そうにはにかみながら『内緒』と答えた。
『ふぅむ。君は肝心なところは秘密にするのが得意だな』
『…って、こういうのはあまりベラベラ喋ったら、そっちのほうが変だよ。…嬉しかったのは、もしかしたら、私だけかもしれないし』
『そうか?如月兄は…ご機嫌に見えるが?』
ニアがちらりと律を見ながら言った。
…確かによく見ないと分からないが、八木沢達と談笑する姿は、いつもよりも楽しげに…見えなくはない。
だが。
『でも…ほら、八木沢さんたちとのおしゃべりが楽しいだけかもしれないし』
かなではそう思って素直に口に出すと、ニアは呆れたように言った。
『…君も、如月兄に負けず劣らず鈍感だからな』
『え?』
『いや…、まあ如月兄は分かりづらいからな。だが、弟はいつにも増して不機嫌なのは何故だろうな?』
ニアが今度は響也に視線を向けると、響也は…不機嫌そうに人の輪から離れ、部屋に戻るところだった。
『どうしたのかしら?』
『さあな。…まあ、こればかりは仕方ないのだがな』
ニアは意味ありげに微笑みながら答えた。
ニアには響也の不機嫌の意味が分かっていた。
それは、…ニアの仕掛けで律とかなでが一緒に行った肝試しのせいだ。
寮につくまで仲良く手を繋いで帰ってくるのを見てしまえば、複雑な感情を持つのは仕方ないだろう。
『…君は本当に罪作りだよな』
ニアが半ば呆れたように呟いた。
『どういう意味よ?』
『いや…いずれ分かるだろうよ?さ、私達も寝よう。明日も朝から練習なのだろう?』
ニアにそんなふうにごまかされ、かなでは納得しないまま、部屋に戻ったのだ。


…そんないろんな意味で疲労した翌日、遅刻ギリギリに起きたかなでは、慌てて部屋を出た。
…が、何かがおかしい。
夢見心地で休んで、まだ夢のなかにいるのだろうか?
寮の内装がやたらと綺麗になっているのだ。
「え?これは…」
夢ではない。
ぺちぺちと頬を叩きながらリビングに向かうと。
「おい、そこの地味子」
そんな声が聞こえてきた。
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