短編

□放課後の内緒話
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それは昼休みの事だった。
冬海が友人達と昼食を食べながら、雑談をしていた。
話は昨日のテレビがどうの、とか、明日の実技が大変だ、とか、たわいのないものばかりだったのだが。
いつしかガールズトークに突入しだしたのだ。
やはり年頃の女の子。気になる異性の一人や二人はいるもので。
中には色んな意味で『進んで』いるコもいたりする。
冬海の友人の中にも、そういう女の子がいて、その娘を中心にそんな話が展開していた。
冬海はあまりそういう話をあからさまにするのを好まなかったが、何となく輪の中から外れるタイミングを逃し、困りながらずっと話を聞いていた。
「でもさ、同じ年だと、なんとなくそういう展開に持っていくのって難しくない?」
「うーん、人にもよると思うけど…」
「やっぱり同じ年とか年下は頼りないって感じがして、こっちが考えていても気付いてくれなかったり、考え方がお子様な気がするのよねぇ」
そんな話になった時も、会話に割り込むことなく、ずっと聞き手にまわっていたのだが。
「ねぇ、冬海さんもそう思わない?」
と、いきなり話をふられてしまったのだ。
「…え?」
「そうか、冬海さんの彼は年上だもんね。ねえ、やっぱり年上だとそういう展開も早いのかしら?」
「て、展開?」
「そうそう。キスとか…まあ、その先?」
「え、ええっっ」
冬海は真っ赤になって俯いてしまった。
「つ、付き合いだしたのさっ、最近だから、まだそんな…」
「あ、そうか」
友人の一人が、ポンと手を叩いた。
「土浦先輩が転科してきた頃からだっけ?じゃあまだ微妙な感じなんだ」
「び、微妙?」
一体何を言っているのか分からないが、何となく恥ずかしくなっていると、タイミングよく始業前のチャイムが鳴った。
「ああん、いいところだったのに」
「冬海さん、後で色々教えてね?」
そう言って友人達はそれぞれの席に戻っていったのだが。
…一体何を教えろというのだろうか。
冬海は午後の授業中、ずっとそれを考えていたのだった。

放課後は友人達もクラブ活動や居残り練習などで、冬海に絡んでくる事はなかった。
冬海はそれにほっとしながら、練習室に向かった。
今日はオケ部の活動もないので、少し個人練習をしていこうと思ったのだ。
だが、なんとなく練習しようという気分になれなくて、ノロノロと廊下を歩いていると、練習室の一つに、見知った顔を見つけた。
ぼんやりとその人を眺めていると、冬海の視線に気付いたらしく、笑顔を見せながらドアを開けてくれた。
「冬海ちゃんもこれから練習?」
「はい…。香穂先輩も頑張っていらっしゃいましたね?」
冬海が尋ねると、香穂子は楽しそうに頷いた。
「もうすぐコンクールがあるからね。これで頑張れば、夢に一歩近づけると思うと頑張らなきゃ。目指せ!月森くんに追いつき追い越せ!ってね?」
香穂子は力こぶを作りながら、そんな事を言った。
そして。
「それより、冬海ちゃん、どうしたの?」
「え?」
やはり様子がおかしいのが分かるのか、香穂子が尋ねてきたのだ。
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