短編

□放課後の内緒話
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「何となくぼんやりしてるというか、考え事しているというか…、困っていることがあれば聞くよ?」
香穂子が冬海を助けるかのように言ってくれた。
すると、いくらか心が緩んだのか、ついポロリと言葉が出てしまう。
「キスって…付き合いだしたらすぐにするものなんでしょうか?」
「…は?」
冬海のとんでもない質問に、香穂子は持っていた弓を落としそうになってしまった。
一方の冬海はというと、一回枷が外れたら止まらない水のように、矢継ぎ早に質問しだした。
「もし遅いようだったら、こっちから言ったほうがよいのでしょうか?それともやっぱり待ったほうがいいのでしょうか?年上の方が相手だと、こういうのは早いっていいますけど、どれくらいが早いというスタンスなんでしょうか?…キスってどんな感じなんですか?」
「ちょっ、ちょちょちょい待って、冬海ちゃん?」
香穂子は慌てて冬海を止めた。
「いきなりどうしたの?」
「あ…」
冬海は香穂子に止められ、ようやく我にかえった。
たしかに相談してくれ、とは言ってくれたが、何故こんな話をしたのか、の理由を言っていなかった。
「す、すいません…」
「いや、別にいいけど、冬海ちゃんからキスのうんちゃらな質問が来るとは…はっ、まさかっっ」
香穂子は急に緊迫した表情になった。
「あの土浦くんが、冬海ちゃんにおいたしてきたの?」
「…え?」
「嫌がる冬海ちゃんに無体な事をしでかしたなんて…土浦め、許すまじ」
香穂子は目を吊り上げて、練習室を出ていこうとした。
「せ、先輩っっ、違いますっ、誤解ですっっ」
「あらそうなの?」
香穂子はさっくりと動きを止めた。
「で?土浦くんの暴走でなかったら、何でそんな事を?」
元の位置に戻りながら香穂子が改めて尋ねると、冬海はほっと息をつきながら答えた。
「実は…」
昼休みにあった、友達とのガールズトークについて話すと、香穂子は頭を抱えた。
「…先輩?」
「ああ、ごめんね。しっかしなんつー話を…」
「すっすいませんっ」
「いや、冬海ちゃんが謝ることじゃないし」
香穂子は苦笑しながら答えた。
「まあ、ぶっちゃけて言えば、友達のそんな話は意外とあてにならないって。まあ、精神的には、男のほうが子供だっていうから、必ずしも外れ、ではないけど。でも、それはその人の性格によるものだと思うし」
「はあ…」
「例えば、よ?柚木先輩と火原先輩を思い出してみなよ?」
香穂子に促されるままに、この春卒業した二人を思いかえしてみた。
「…なるほど…」
火原には少し失礼かもしれないが、冬海はその説明で、妙に納得してしまった。
確かに流石だな、と思う柚木と、二つ下の冬海とも気さくな火原。
そう考えてみれば、必ずしも年上がリードするとは限らないのだ。
冬海は悩みが一つ解消してすっきりした。
だが、別の問題が発生した。
「でも、土浦先輩ってどっちなんだろう?」
「…え?」
「香穂先輩はどっちだと思いますか?」
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