おはなし

□雨の日
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「結局やまなかったな…」

俺は部室に打ちつける雨の音に顔をしかめた。
昼過ぎから降り始めた雨はまだ勢いよく降り続いている。

「大地、早く。閉めるよ?」

スガは部室の鍵をクルクルと回しながら、ドアの前に立っている。
俺はカバンへと視線を戻し、入れたはずの折りたたみ傘を探す。
部室にはスガと俺の二人きり。ほかの部員たちは一足先に雨の中へと飛び出していっていた。

「さっきから何探してんの?」
「傘。入れたはずなんだけど…」

ゴソゴソとカバンの中を探していると、スガが笑い出した。

「見つからないんだったらさ、俺の傘にいっしょに入ればいいじゃん」
「あ、」
「ん?」
「いや、なんでもない」

俺は首を振り、慌ててカバンを閉めた。
立ち上がりスガの横へと急ぐ。

「じゃあ、入れてもらおうかな」
「よし、入れてあげよう」

外へ出て、スガの傘へと入り歩きはじめた。

「雨も、たまには悪くないな」

俺の言葉にスガは、なにか考えるように黙り込んだ。
雨はやっぱり嫌だよなと、自分の言葉に苦笑していると、スガがくるりと俺の顔を振り返った。

「それは雨が好きってこと?それともいつもより近づいて歩けるから好きってこと?」

ひとつの傘に入る俺たちの距離は近い。
俺は、後者かなと正直に答えた。

「大地、実は傘持ってるだろ?」
「なんで」
「さっき部室であったって顔してた」
「バレてたか」
「俺といっしょに歩きたいんなら仕方ないけどね」
「スガ」

こちらを見たスガの唇をそっとふさぐ。

「雨も悪くないだろ?」と問いかけた俺に、「そうかも」とスガは微笑んだ。



end.

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