おはなし
□きみにあげるよ
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目の前の先生は、瞳を輝かせて頷いた。
「なるほど、さすが烏養くん!」
ほんと、この人バレーボールについてなにも知らないのかよ。
俺は苦笑した。
「なるほどじゃねぇよ。これ、前にも説明しなかったか?」
先生は「聞いてないよ」と首をふる。
「烏養くんに教えてもらったことは、ちゃんと覚えているからね」
そう言ってポケットからメモを取り出した。
俺が教えたことや自分で調べたことが細かく書かれている。
バレーボール経験はないと言っていたが、しっかり顧問を勤めようとがんばっている。
「まぁ俺の貴重な時間をあんたらのために使ってんだから当たり前だけどな」
いじわるなことを言ったのに、先生は「ありがとうございます」とペコペコと頭を下げる。
「いや、いいから」
「そうだ。今度、烏養くんになにかお礼しないとね」
「お礼?」
「うん。僕じゃみんなのために、なにもできないからね。烏養くんにはすごく感謝して「あんたもがんばってるだろ」
先生は驚いたように俺を見る。
「ほら、それ…とか」
そう言って、先生のメモを指さした。
「これは、がんばってることになるのかな」
「なるだろ」
「ありがとう」
さっきの頭をペコペコ下げるのとは違い、先生は照れたように笑った。
「で、お礼はなにがいい?」
「まだ言ってんのかよ」
「なんでもするよ」
あきれる俺を尻目に、先生は再び瞳を輝かせた。
じゃあ…
「先生の時間、俺にくれよ」
「時間?」
「そ。あんたが先生でいる以外の時間…学校が終わったあとや休みの日、俺につきあえよ」
「そんなのでいいの?」
「いい」
あいつらに向けている情熱を、すこしでも俺に向けてほしいと思ってしまった。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、先生は今日一番の笑顔を見せた。
「烏養くんにあげるよ、僕の時間」
end.