おはなし

□ふわりと
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「影山!トスあげて」

俺の言葉に影山はおもいっきり眉間に皺を寄せた。

「俺は今からサーブの練習するんだよ」
「トスあげてー」
「お前、俺の話聞いてる?」

俺の頼みを無視しようとする影山に、キャプテンたちから「あげてやれ」と声がかかる。
影山は、しぶしぶといった感じで了解した。

「本当にうれしそうだよね」

山口の言葉に「だってうれしいし」と本音を返すと、月島が「お前ら最強だもんな」と突っ込んだ。
影山が鋭い視線を向ける。月島はひるむことなく続けた。

「この前言ってたでしょ。なんだっけ…俺がいれば最強?」
「なに?やっぱりボールぶつけられたいの?」

影山がバンバンとドリブルする。それに気づいたキャプテンが素早く二人を注意しはじめた。

あれ?俺にトスあげてくれるんじゃなかったっけ?

「俺へのトスは、どこいったんだろうって、顔してる」

思っていたことをズバリ山口に言い当てられてびっくりした。

「なんでわかったの?」
「わかるって。本当に影山のこと好きだよね」
「ちがうって」

否定するけど、山口は気にしていない。

「この間も影山の言葉で復活してたし」
「なんのこと?」
「さっきツッキーが言ってた、最強の話」
「ああ、あれ」

今、考えると、なんであんなにもやもやしたんだろうと思う。

あのとき、影山がトスしてボールをあげるみたいに、影山の言葉で沈んでた俺の気持ちは、ふわりと浮かびあがったのだ。

『俺がいればお前は最強だ!』
本当にそうかもしれない。

「おい」

キャプテンの話が終わったのか影山が俺を呼んだ。

「トスあげてやっから、月島に当てろよ」
「ちょ、それ俺が怒られるんだけど」
「また言ってるよ、最強コンビ」

月島が呟く。
最強コンビ!?それもいいかもしれない。

「俺がいれば影山も最強だし」

へへんと鼻をこする。

「ちょっと待て。俺はお前がいなくても最強だ」

そう言って影山は、ふわりとトスをあげた。



end.

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