お題
□3.つれない態度に、
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「潔子さぁん、今日も綺麗です」
俺は潔子さんに向かって手を振る。潔子さんは、いつものように華麗に無視する。
「そんな貴女も素敵です」
「ははは」
俺の声を聞いていたのか、スガさんが笑った。
「スガさん、今日も爽やかッスね」
「はいはい、ありがとう」
スガさんは俺を適当にあしらうけど、これもいつものこと。
そんな貴方も素敵なんスけど、
「どうやったら、振り向いてもらえますか?」
俺が真剣に聞くもんだから、スガさんはすこし考えるようにしてから、「じゃあ、デートに誘えば?」と言った。
「いっしょに映画、行きませんか?」
「いいんじゃない。なんの映画?」
「ラブストーリー」
「定番だな」
「チケット貰ったんスよ」
俺は貰った映画のタイトルを言う。
「ああ、今、話題の。清水、ラブストーリー好きだといいけど」
「え?なんで潔子さんッスか?」
「清水を誘う話だろ?」
「俺が誘ってんのはスガさんスけど」
「俺なの!?」
「そうですよ」
スガさんは意外そうにこっちを見た。
「俺と映画行く気なの?しかも、ラブストーリー」
「いいじゃないって言ってましたよね?」
「清水を誘うなら、いいって言ったんだよ。男二人でラブストーリー観て、どうするんだよ」
「なにか芽生えるかも」
「なにも芽生えねぇよ」
「じゃ、ラブストーリーはやめて、アクション映画とか」
俺はファイティングポーズをとり、右ストレートを繰り出す。
「そもそも田中と映画って、どうなんだろ」
「そこッスか?」
「うるさそうじゃん。映画中、ずっと喋ってそう」
「いや、喋っては…いるかも、しれませんけど」
「喋ってんのかよ」
「でも、静かに観ます。だから、一緒に映画に!」
「んー…」
首を傾げたスガさんは、「考えとく」と微笑んだ。
そうやって笑顔を見せてくれるから、俺は期待してしまうのだ。
つれない態度に、恋をした。
end.