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□それは暑さのせい
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山口が暑い、暑いと呟く。
その言葉を聞くたびに、暑さが増していくような気さえしてくる。

「ツッキー、暑い」
「知ってる」

太陽はギラギラと燃えている。テレビのアナウンサーは今年何度目かの、この夏一番の暑さだと言っていた。

「ねぇツッキー、なにか買ってこうよ」

山口はパタパタと坂ノ下商店の中へと入っていった。
俺もあとを追って入る。外とは違いひやりとした空調が心地よかった。
スポーツドリンクを手に取ると、先に入った山口を探した。
見つけた山口は、アイスのショーケースをじっと覗きこんでいる。

「なにやってんの?」
「買おうかな」
「買えばいいじゃん」
「イチゴとバニラ、どっちにしよう…」

そう言って、動きを止める山口。
そんな悩む山口を押しのけて、俺はケースからふたつのカップアイスを取り出すと、さっさと会計を済ませた。

「行くよ」
「え、え?」
「両方食べればいいじゃん」
「ふたつもいらないんだけど」
「俺も食べるんだよ」

外に出ると、また蒸し暑さが襲ってきた。
山口はとなりで「暑い、溶ける」とバニラアイスを食べはじめた。
俺の手元のストロベリーアイスは溶けはじめていた。

「おいしいね、ツッキー」
「まあまあ」
「バニラはおいしいよ」

「はい」と差し出されたスプーンの上のバニラアイスを見つめる。

「早く食べないと溶けちゃうよ、ツッキー」
「そうだな」

口に含んだバニラアイスは、

「甘っ」
「あはは」

外は蒸し蒸しと暑いし、アイスは甘過ぎだし。

「山口もイチゴ、食べる?」
「食べる」

でも山口が楽しそうなら、それも悪くないと思ったのは、きっと暑さで思考がおかしくなったせいかもしれない。



end.

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