企画

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日向がこっちに駆けてきた。俺の前にピタリと立つと、笑顔を見せた。

「どお?」

正直、何が「どお?」なのか、わからなかった。
日向はそんな俺の顔をのぞき込みながら、「わっかんないかなぁ?」と背伸びを繰り返している。

「イラっとするのは、わかる」
「えー違うって。ほら」

「ほら」と自分の頭の上に手のひらをあてると、それをそのまま背を測るみたいに俺の方へとスライドさせた。

「な?」
「は?」
「俺、背伸びただろ?」
「どこが」
「1センチくらい伸びた」
「全然わかんねぇよ!」

どうやら、身長が入学当初よりも伸びているらしい。
本人曰く、1センチは伸びたそうだが、そんなちいさな変化はわからなかった。

「あっそ。よかったな」

だから適当に答えたけど、身長が伸びていることが嬉しいらしい日向は、特に気にしている様子はない。

「だろ!この調子でいったら、俺、卒業するまでに、あと30センチくらいは伸びるかも」

30センチ伸びた自分を想像している日向は、自信満々に言う。

「そしたら、影山のこと抜いちゃうな」
「俺を抜くとかムリ」
「なんで?」
「お前が30センチ伸びるんだったら、俺も30センチ伸びる」
「じゃあ俺は40センチ伸びるし」
「なら、ごじゅう…」

なんて、アホらしい言い合いをしているのかに気づいて、言うのをやめた。
かわりに、日向の頭を上から押さえこんだ。

「ちょっ縮む!縮む!!」

日向は、叫びながら俺の腕から逃れた。

「何するんだよ、いきなり」
「お前は、伸びなくていい」
「は?」
「そのままでいい。俺よりデカいお前とか」

俺は首を振った。

「何?」
「……」
「何だよ」
「……抱きしめにくいだろうが」

ぼそりと呟いた俺の言葉に、日向の勢いがピタリと止んだ。それからギクシャクと数回頷いた。

「うん…うん…そういうもん?」
「そういうもん」
「もしかして俺、このままの方がいい?」

日向の問いに、俺は大きく頷いた。

俺にとって、今の日向の大きさが抱きしめるのには、ちょうどいい。



end.
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