ディアラヴァ
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失敗した
そう感じた時には事態はどんどん悪化していた。
塞がれる逃げ道、目の前には二人の男
「ねえ、話くらい聞いてよお姉さん?」
ああ気持ち悪い。こんなことになるならば今日やった仕事を明日の朝に回した方が良かったかもしれない、と考えてみても今の状況は変わらなくて
比較的平和な地域に住んでいたため、夜中の女の独り歩きの危険性を忘れてしまっていた。うっすらとどうしようかどこか他人事のように考えていると突然つかまれる肩に体が震える
「や、やめて…くださっ…」
「わ、かーわい。声震えてんよ?大きな声出せないの〜?」
ぎゃははとゲスな笑いをこぼす目の前の男たちに蹴りの一つでもできるようになっておけばよかった。こんな男たちでもバカにされて笑われるって言うだけで泣きたくなってくる。
ちらりと周りを見渡してみても、閑散とした風景が広がるだけで人影らしきものは見えない。見えたとしても今のご時勢にわざわざ人助けをするそんなヒーローみたいな奇特な人がいるという期待も持てない
「おーい、聞いてんの?とりあえずこっちいこっか」
ね?なんて言いながら腕をつかまれる。ちょっと、待って、私許可出してないです。いやといってみた声は蚊の鳴くような声で、相手がひるむ様子もない
「やっ…」
「やっだってよ、もっと抵抗してもいいんだよおねーさん」
「震えてんじゃん。たまんね…」
「おい」
もうむり、そう思った瞬間に急に視界が開ける。呆然と見ていると男二人は壁に押し付けられていたーー大きな男の人にーー
「こいつは俺の獲物だ。こっちは1ヶ月も前から唾つけてんだ、邪魔すんな」
地を這うような声で男の人を脅したかと思うと次に聞こえてきたのは二人の苦しそうなうめき声。
ギリギリと私のもとにまで聞こえてきそうなほどに二人の男を締め付ける彼は誰なんだろうか
呆けている内にパッと手を離された二人の男はそのまま怯えて逃げていった
「ったく、一瞬目を離したらこれかよ…めんどくせぇ女」
「え、あ、あなた…は?」
あ、お礼…言わなきゃ…と思ったその時に体に感じた浮遊感。意図せずにちいさな叫び声をあげてしまう
「あー…めんどくせぇ。大人しくしとけ…おら、行くぞ」
ドスの効いた低い声に恐怖を感じた体が震える。どうして私は初対面の方(恩人)に俵かつぎされて夜の住宅街を闊歩されているのか。誰もその疑問には答えてくれない
「ちょ、あ…あのっ!!」
「っだよ、うるせーな。別にとって食いやしねーよ」
ギロリという効果音をつけてこちらをにらみつける彼はとても怖くて、とても美しかった。
イケメンさんはなにをしても絵になるんだなあ…そして迫力美人さんだなこの方は…
まさに蛇ににらまれたカエルよろしく何も言えなくなる私。自分でも情けないってわかってるけど怖いものは怖い。
無言で歩く道のりは長いような、短いような
降りろ。と短い一言とともに久しぶりに地面にご対面。と同時に気付いたこと
「あっ、す、すみません…あの、助けてくださってありがとうございました。」
「…別に、獲物がとられそうになったからやっただけだ」
獲物…?変わった表現をする方だなあ…もしかして外人さんって言うのもあり得るのかもしれない。この身長・瞳・髪の色…どれをとっても彼が外人さんだと言われると納得がいく。
どこから出したのかわからないビンの中から角砂糖を出してガリガリと食べている彼をちらり、見てみると…うん、きっと外人さん。
「じゃあな、名無しさん」
「え、はい…あ、ありがとうございました。」
しばし自分の世界に浸ってしまっていたらしい。彼は私を見たかと思うと「あー…」と少し言葉を濁した後に一言、またなって言ったのが聞こえた。
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