ディアラヴァ
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俺のために生きているだのエサだの、そろそろこの方が外人だからという理由だけで許される事態じゃなくなってきている気がしてます。まず今までの私の人生を全否定されているような発言に少しイラつきながら口を開こうとすると
「帰んだろ?」
って言って強引に手を引いていくので困りもので。うぅ…なんでこんなことになったのだろう
「一人で帰れますし、あなたのエサ…?になった覚えはありません。私のことは放っておいてください。」
言った。言ってやった。と妙な達成感を味わっているとギリッと強く握られる手。ちょっと…いや、かなり痛い。
「痛っ…ゃ、やめて下さい…」
「帰るよなぁ?……俺、そんなに気が長い方じゃないんだぜ?」
笑顔を出しつつも目は笑っていない彼の迫力と未だに感じる手の痛みに私が出した答えは
「……か、帰ります。なので、手を離してください…」
「わかりゃあ良いんだよわかりゃあ。素直な奴は嫌いじゃないぜ」
「え、ちょっ…手をっ離して…」
「離すとは言ってねぇ。逃げられっと面倒なんだよ」
パッと手を離してもらえて安心したのも束の間の出来事でなぜか上からがっしりと握りこまれていた手を普通に繋ぐ形に直された。今度は壊れ物を扱うかのような優しい手つきで
ちっせぇ手…なんてぼそり呟いた彼はどこか悲しげだった。
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結局彼の腕を振りほどけないまま道を歩く。会話は、ない。
沈黙をなくしたくて、何か話そうと口を開いては話題が見つからず閉じる。の繰り返しをしている私など彼には見えないようでただ黙々と角砂糖をガリガリしながら早足で歩いている。悲しいかなリーチの差でかなり歩きづらいけれども、そんなことをいう度胸もない私はやはり閉口するしかなかった。
「っち、おせぇ…」
「え、あ…ごめん、なさい…?」
なんで謝らなきゃならないの私。
というか彼はこれでもペースを落としていたとでもいうのか。その長い足が憎い…
「お前は歩き方までぼやっとしてんな…ったく、仕方がねえ。」
「ぼ、ぼやっとってどういう意味ですか!?」
「そのままの意味だバーカ。現に昨日だってぼやっと平和面して歩いてっからあんな奴らに目をつけられたんだぜ?自覚、あんのかバカ女。」
「バッ…!?」
「おーっと、静かにしような名無しさんちゃん?それとも人でも集めたいのか?ま、俺は別にかまわねえけど」
あああああなんでこんな、意地の悪い笑みが作れるのか!!!馬鹿にしたような笑みも様になっているのがすごく悔しい…所詮人間というものは美しいものに弱いのです。
ひとしきりからかい終えたのかふぅっと息をついてまた、沈黙。さっきほど居心地が悪いものではなくって、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみた
「あの…無神さん?」
「あぁ?ユーマでいい。苗字なんざ気持ち悪ぃ」
「え、ぅ…ゆーまさん…?は、えっと外人さんなんですか?」
「ハァ!?………お前、本気で言ってんのか?…くっ…ははっ…」
なぜか今の一言がかなりツボだったらしくしばらくの間ユーマさんは人目をはばかることもなく笑っていた。
何が笑われる要素なのか分からなかったけど、笑われたことがなんだか悲しくて恥ずかしくてついうつむいてしまう
「っはー…久しぶりにこんなに笑ったぜ…くっ…それにしてもなんで俺が外人…くくっ…おい、名無しさん………んだよ、どうしたんだ?」
ひとしきり笑い終えたのか、こちらを見た彼は私がうつむいているのを目に止めると不審に思ったようで体格にあった大きな手をこちらに伸ばしてきた。
体格差から感じる恐怖にビクリと震えてしまう体を見て舌打ちをひとつ落とすと、行くぞって言ってまた歩き出す
粗雑に扱うかと思いきや急に優しくなったり、馬鹿にしたり
ねえ、ユーマさん…あなたは一体何者なんですか…?
**
また長い沈黙の後にぴたり、足を止めて振り返るユーマさん。
あ、もう家についたんだ…
「明日も遅かったら犯す」
「え、あ…ちょ、んんっ…」
急にきれいな顔がアップで映ったと思えば消えて、なぜか彼の顔は私の首筋に
吐息がかかってぞわりとする体。すん、と鼻を鳴らした後に首に吸い付かれる。
ハァ…というなんとも色気のある吐息をこぼして離れる唇。離れる直前にぺろりと舐められた跡が外気に当たってひんやりするのもなんだかこの映画のワンシーンのような色っぽい雰囲気に拍車をかけている。
「っは、ん…ちゅっ………虫よけだ、隠すなよ」
「な、なな…あな…た、何を…」
「あ?俺のもんに所有印つけて何が悪いんだよ。……お前は、俺のもんだぜ?なぁ、名無しさん…寄越せ、お前が、欲しい…」
本当に意味が分からないとでも言うようにのたまう彼に私が間違っているのかと錯覚しそうになる。
お前はおれの物、だとかお前が欲しいだとか初めて言われる言葉ばかりで混乱する頭の中。そのうち返事をしない私に焦れたユーマさんはなぜかまた、首に顔を近づけていって…
「ゃ…やめてくださ…っ」
怖い。怖い。こんなの知らない。どうして彼はこんなことするの、どうして彼は私なんかに構うの、意味が分からない
なんとか体の間に潜り込ませて抵抗しようとする手も片手でまとめあげられてしまう。あっけない力の差に涙がにじんでくる
「んだよ…今いいとこなんだから邪魔すんな。あー…うぜぇ。…っ泣くんじゃねえよ」
さっきまでとは比べ物にならない手つきでそっと私の体を開放するユーマさん。どうして、急に優しくするの?どうしてこんなこと…するの?
疑問ばかりが浮かんでは言葉にできない私を置き去りにぐいぐいとマンションのエントランスへ引っ張っていくユーマさん
鍵、と一言だけよこされて反射的に鞄から鍵を出す。
だから、なんで私はこんなに負け犬根性というか…言われたら断れないというか…なんかもうこれは病気の域だと思う。ついさっきまであんなに怖い思いをしたというのに…
自動ドアが開いて、また手を捕まえられて…だから、ユーマさん…
「ど、どうして私の部屋を知ってるんですかっ?」
「ふん、教えてやんねえ。」
にやりと悪役のような悪い顔をして家主を差し置いてドアを開け始める彼を誰が止められようか、私には無理でした…
がちゃりと音を立てて開いた玄関。いつも通りの暗い部屋にほっとするようなしないような。
ちらりと横に立つ彼を見上げるとなにぼーっと突っ立ってんだ、入れよと促されとぼとぼ中へ足を進める。
「明日、同じ場所で待ってる。遅れたらマジで無茶苦茶にするからな。おら、鍵閉めろよ」
こちらの返事を聞くつもりもないのか一息で言い切るとばたりとドアが閉められて慌ててドアを開けて廊下に出てみたけど、見えるのはがらんとした景色だけ。
ユーマさんはいったい何者なんだろうか。彼はどうして私に触れるの、どうして私に優しくするの、私は別にこんな急激な変化なんて求めてない。知らないことを知るのが怖い。エサって何のこと?私がいつ、ユーマさんの所有物になったっていうんだ…
部屋に入ってからも、お風呂に入っているときも夕食を食べているときも、気づけば彼のことで頭がいっぱいだった
また明日もいるのかな、ユーマさんという不思議な存在がちょっと気になってしまう気持ちと、先ほどの首筋に当たった熱い吐息を思い出して恐怖に震える身体と…相反する思いを抱えながら意識を落としていった。
あー…疲れた…
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