ディアラヴァ
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目が覚めたらずいぶんと近い距離にユーマさんがいた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて身じろぎもできない。今は何時だろう…彼が寝ているということはもう朝方であることは間違いない。
眠るときはいてくれるけど私に気遣ってか、いつもは寝ている間にいなくなってしまうユーマさん。昼夜逆転だから休みの日には彼はいつも夕方ころに来る。ちなみに以前の家庭菜園のときにはちょっと頑張って起きていたそうで、とても可愛らしいなと思ってしまった。
「ふふ、可愛い…」
初めて見る彼の寝顔。いつもはきりっと上がっている眉が下がっていてなんだか可愛い。髪の毛も寝るときは下ろすんだなぁー…私が寝たあとにどうやら我が家のバスルームを使ったようで私と同じシャンプーの香りがする。
普段は棺桶で眠る彼がこうしてベッドで、私の目の前で普通に眠ってくれることに底知れない喜びを感じる。
少しの隙間から手をなんとか出して、こっそりと彼の髪の毛に触れてみる。さらさらと指触りの良い茶色い髪をくるくると巻き付ける右手はそのままにして、左手で頬に触れる。
すべすべ…でもやはり体温のない彼の体はなんだか物悲しくて、種族の違いを思い知らされる。
どうして、私は人間でユーマさんはヴァンパイアなんだろう…こんなに大好きで大好きでたまらないのに。どちらかが歩み寄れる可能性としてはやっぱり、私が彼の種族になることが一番高い。今まで生きてきた生活をなげうってでも着いていきたい。両親に恩返し、できていたのかな…こんな娘でごめんなさいってちゃんと謝ってないな。でも、ユーマさんを愛してる気持ちはきっと揺るぎないもので、私からは離れられない。
「ずっとずっと大好きです」
ユーマさんが他の女性を見つめるようになったら私は狂ってしまうだろう。だって耐えられない。彼が他の人を見つめる姿なんて見てられない。
告白と一緒に彼に抱きついて胸に顔を埋めると甘い甘いユーマさんの匂いが鼻を擽る。
すごく心地よくてすんすん鼻をならして堪能してしまうんだけど…あれ、ユーマさんの癖が移っちゃったのかな…?
「…あんま可愛いことすんな。それともこのまま喰われたいのか?」
「ひっ…ぁ、ゆ…まさん、起きてたんですか…?」
自分の行動を思い出して一気に上昇する体温。首筋に顔を寄せてペロリと舐められる感覚は何度経験しても慣れない
「んっ、お前が髪いじり始めて起きた」
うぁぁ…ほぼ最初からじゃないか…でも少しだけ寝起きでぼーっとしているらしいユーマさんは戯れもほどほどにそのまま抱きついてまた寝ようとしていた。
「まだ、寝る…」
すぅすぅ寝息をたて始めようとしているユーマさんの頭を撫でてみる。ん、と吐息を漏らすだけでなにも言わないからこのままで良いのだろうと解釈した。
「あー…眠ぃのに、お前構いたくて仕方がねぇ…」
「わっ、ん…ゃ、」
ふと顔を上げたユーマさんはそのまま首筋に噛みついてきて、かぷかぷと可愛らしい音をたてながら首筋から鎖骨にかけて甘噛みしている。
それはまるで子犬がじゃれついてくるようで普段とは全く違うユーマさんを見れたことに胸がきゅうんと締め付けられる。今日一日でずいぶん得した気がする…
噛みつきながらも牙を立てないようにしているのが分かり、また締め付けられる胸。かぷり、かぷり、たまに吸い付いてくる唇が通っていった肌には赤い所有印
「ん、綺麗についたな。消えたらちゃあんと言えって言っておいただろ?」
満足げにうなづいた後に眉間にしわ
だって、ユーマさん、なんて言えばいいんですか…?
恥ずかしすぎる…
**
「簡単じゃねえか…おら、おねだりしてみろよ。」
「ん、ゃ…ぁ、むっむりですよ…ぅ、んぁっ」
ちゅっちゅっておでこと頬と鼻、最後に耳にキスされる。吐息がダイレクトに聞こえてきて顔が真っ赤になったのが分かった
「熱いな、名無しさんの体。心臓も早い…」
そっと頬に優しく右手が、胸元に左手が添えられる
弾力を楽しむかのようにつつかれてそんなつもりはないのに震える身体、自分ではないような声が漏れる
「ゃ…ぁ、ゆーまさっ…!!!んぅっ…」
「っ、気持ちいいんだろ?なぁ、そろそろ食べごろか…?泣きたくなるくらい、いやってほどに優しくしてやるから…。名無しさん、お前のこと壊しちまいそうで怖いくらい愛してんだよ…選ばせてやる、吸血とセックスどっちがいいんだ…?どちらにしてもお前の初めては全部俺のもんだ。俺によこせよ」
襲いくる快感とユーマさんの囁きで首を横に振るくらいしかできなかった。どちらかを選ぶだなんて今の私のぐずぐずの頭の中では到底無理な話で…
「っち、気持ち良すぎて返事も出来ねえってか?……それとも、俺が怖ぇか?」
先ほどまでの俺様ユーマさんはどこに行ったのかって驚いてしまうほどに急に不安げに瞳を揺らす
「怖く、ない…です。ユーマさんが大好きだから…愛してます、ユーマさん、愛してます。」
でも心臓が破裂しそうなくらいドキドキしちゃって、好きすぎて、好きすぎて、どうすればいいかわからないんです。私の初めては全部あなたのものです。
「……これでも結構我慢してんだぜ?あんま煽んな。」
ふい、と照れたように顔を逸らして抱きしめられる。おでこをこつんと合わせてじっと見つめられる。
「これでもう、俺しか見えないだろ?さっき、お前に選ばせてやるって言ったが気が変わった。知ってるか?処女と処女じゃない時で血の味が変わるんだぜ?どんなお前のどんな血でもぜーんぶ俺のもんだ。ぜんぶ、ぜんぶ俺によこせよ、名無しさん。」
首に牙が寄せられて身体がつい、硬くなったのが自分でもわかった。これで私もヴァンパイアになるのかもしれないと思うと嬉しくもあり、怖かった。
「んっ、ふ、ぁ…」
ぺろりとどこに牙を立てようか吟味するように首筋をなぞる舌にビクリと肩が震える
「どこから吸っても、名無しさんの血は甘いんだろうな…だが、今日は止めた。」
「ぅ、え…?」
どうして…?どうしてユーマさん…?私、何かした…?
「…泣いてるお前を見ないふりできるほど、名無しさんに関しては鬼畜じゃなかったみてえだ。今日はこれでいい。」
ちゅうって音がなるくらい唇に吸い付かれて舌を絡められる。それだけで頭がぼおっとしてしまう…目じりにキスをして「寝る」とだけ言い残したユーマさんの抱き枕に逆戻り
「ごめんなさい…ゆ、まさん、ごめ…なさっ…」
意気地なし。どうしてこんなに大好きなのに、どうして私はこうなの…
「謝んなバカ。」
「だ、って…大好きなのに…っ、ごめ…んむっ」
「これ以上謝ったらずっとこのままだからな」
「ふっ…んぅ、ぅまさ…」
口の中に指を入れられてびっくりしたけど直後に甘い口づけの嵐
「ん、今日はおとなしくこのまま抱かれとけ」
さらさらと髪の毛を撫で付ける手も抱き寄せられる胸板も好きで好きでたまらない。
ごめんなさいの意味も込めて、少しだけ自分からそっと舌を差し出してみるを彼は驚いた表情を見せた後苦笑いをこぼした
「お前は俺を試してんのかよ…」
あー…早くお前のこの首からありったけの血を吸って、名無しさん自身も聞いたこともねえような声、たくさん聴きてえ…鳴かせてえ
耳元でつぶやいてくるユーマさんの声は甘く、私の中に溶けていった
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