ペダル

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「どーでもいいやつの事構うほど暇じゃねェんだわ」なんて言われたあとで改めて、練習見においでヨ。なんて言われたら期待してしまうよ靖友くん
欲望の赴くままに(こんなかっこいいこと言ってるけど結局練習中の靖友君が見たかっただけだ)来たのは洋南大学の入り口。やっぱり少しだけ気後れしてしまうなあ…なるべく目立たないように普段のOLスタイルではない綺麗めの服を着てきたけれど、やっぱり年上に見えるよね。

ちなみに靖友くんのいつでもいいヨの一言に甘えて、なんだか照れ臭いから彼には今日来ていることは伝えていない。これはきっと見つかったら怒られるけど、私だって言うことに勇気を振り絞るのと、靖友くんに会うのに勇気を振り絞るの二回より一回で済ませたい。うん、自分でも何を言っているのかよくわからないですごめんなさい。

ここで問題が一つ浮上する。靖友くんにどうやって会うかだ。今日は日曜日だから人も大分まばらで訪ねられそうな人も見当たらない。
なんでこんなチャレンジャーなことをしてしまったのだろうか…いや、でも靖友くんが走ってるところを見たい

「名無しさんチャン、何してんのォ?」

心細くなってきて幻聴まで聞こえてくる

「おーい、無視かヨ。いい度胸してんじゃなァい?」

がしり、頭を捕まれる感覚。ついに具現化までしてきたか…幻覚って怖い。

「荒北、女性の頭を鷲掴みにするもんじゃないぞ」

「こいつトロいんだヨ。ほら、まだ考えてんだろォ」

「あ…靖友くん。本物?」

俺の偽物でも見たことあんのォ?って眉間にシワを寄せるのは紛れもなく靖友くん…わぁ怖い。

「靖友くんー…心細かったよ、おばさんがこんなところ単身で来るものじゃないね…」

なんだかすごく恥ずかしくって、彼のお友達に誤解されたら靖友くんが可哀想だし。
逃げ出そうとした私の手をがしり掴む右手の力は思ったよりも強くて

「待てヨ。練習、見にきたんじゃないのォ?」

行くヨってそのまま腕を引かれれば逃げる術があるわけもない。

「待って、靖友くんごめん恥ずかしいだろうし逃げないから手を放してもらえると嬉しいなーなんて…」

「あァ?」

「っ、ご、ごめん何でもないです」

隣を歩くお友達の呆れた表情が見えていたたまれない気持ちになる。

「あ…金城ォ、この子名無しさんチャン。新開の従姉妹」

「初めまして、えと金城さん…?みょうじ名無しさんと申します。」

歩幅が大きい靖友くんに引きずられながら自己紹介だなんてさぞかし滑稽な様子だろう。

「ほぉ、新開の…」

「あ、この子俺のだからァ手ェだすなよ。」

「え?俺の…?」

「名無しさんチャンは細けーこと気にしなくていいからァ。」

俺の(おもちゃ)って意味なんでしょ?知ってるよ靖友くんが私の事からかいがいのある女くらいにしか見えてないことくらい!!
憤慨しながら靖友くんに主張してみれば元々機嫌が悪そうだったお顔をさらに怖くして

「お前、本っ当にバァカちゃんだなぁ!!!!」

「ひゃっ、え…?ご、ごめんなさい…」

と怒鳴った彼がとても怖かったことを私は一生忘れられそうにない。




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