黒バス
□目立たない
1ページ/1ページ
中学校入学してから日も経って段々お互いのことが分かるような分からないような・自分に合いそうな相棒を発見し始める時期に俺はあろうことか同じクラス、同じ部活の青峰と一緒にいることが多かった。
部活が一緒だったのが主な要因だろうがあのやかましいバスケ馬鹿と一緒くたにされるのは心外なのだよ、と何度思ったか分からないセリフを心の中で今日も言ってみた昼休み
「緑間ーちょっとパン買ってくるわ」
「勝手に行けばいいのだよ。俺には関係ないのだから」
「冷てーこというなって!!」
じゃあ、行ってくっからーなんて笑顔が無駄に眩しいのだよ。ただのスケベなバスケバカのくせに
今日のラッキーアイテムであるクマのぬいぐるみを机の上にしっかりと座らせて昼食を取り始める。今日もいつも通り。これから午後の授業を受けて部活に行って帰る。なんら問題のない平凡なスケジュールだが部活が充実しているせいか不満は全くない
爪もしっかりと整えてあるし人事は尽くした。今日もシュートをはずすことはないだろう
大量にパンを買いこんできた青峰を横目に昼食を食べ終えてふと図書室に本を返しに行かなければならないことを思いだした
一応、青峰に伝えてから図書室への道のりを少し急ぎながら歩く。放課後だと部活に遅れるところだったのだよ…
危なかった、と思いだせたことに安堵する
物語ものというよりは参考書を借りてくることが多く図書室はよく利用する。かといって図書委員に知り合いがいるわけではないのだが、独特の静かな空間は結構落ち着くものだった
・
ガラララ、と扉を開けてカウンターへ向かうと本を開きながらこっくりこっくり、今にも睡魔に飲みこまれそうというか半分は飲みこまれている人物がいた
「返却なのだよ」
あまりにも気持ちよさそうだったのでちょっと気がひけたがこちらも時間が余っているわけではないので受付の人物に話しかけると、すぐさま現実世界に戻った彼女は丸い瞳をパチパチさせてじっとこちらを見始めた後
「…あ、ごめんなさい。もしかしてずいぶん待たせちゃいましたか?」
ととても申し訳なさそうに眉を下げるものだから来たばかりなのだよ、と言っておく
「本を読むのは大好きなんですけど、睡魔にどうしても勝てない日があって…ごめんなさい。返却ですね」
図書館なんて大勢が押し掛ける場所でもないので眠くなる気持ちも分からなくもない。と思うのと本当に申し訳なさそうな顔を見ていると元から怒るつもりもなかったのだがなんだか毒気を抜かれる気分になるから不思議だ
そこからは事務的にバーコードを読み取るピッという音と、彼女のいいですよ〜という間延びした声が聞こえたので「どうも」とだけ言い残して図書室を去った
もう気持ちは放課後の部活に向かっていた。授業中居眠りして怒られる青峰は華麗に無視することに決め早くシュートが打ちたい、練習したい、とはやる気持ちを抑えて気付けば放課後になっていた
・
全体練習も滞りなく終え、個人練習の時間
いくらキセキの世代と呼ばれようともレギュラーを勝ち取るという意味は理解しているつもりだ。いつでも人事を尽くして全力で臨む、シュート練習も欠かせないし欠かすつもりは微塵もない。
何やら青峰と黄瀬が1on1を始めたのでがやがやとギャラリーが増えてきているが俺や黒子なんかは気にせず違うコートで練習を始める
いつ見ても黒子は…なんというか、試合以外では全く強敵には思えない。それが彼の持ち味だし認めてはいるがこうも個人戦に弱い彼は不思議という言葉以外にあまり似あう言葉が見当たらない
ワンバウンドさせたボールをハーフコートラインからすっと投げる
パシュっと心地いい音が響くこの瞬間がたまらなく好きだ。
そして投げてから綺麗な弧を描いて入るボールを見ていると自然と頬が緩む。これだからシューティングは止められないのだ
さてもう一球
とボールが手から離れる瞬間目に入ったのはゴールポストの先にいる女子
投げた人物であるこちらのことなど見えていないかのように視線は今ボールにくぎ付けで。
ゴールに入ってから落ちたボールをしばらく見つめた後にはっとした表情を見せて
「すごいです…私バスケには全然詳しくないんですけど、見惚れちゃいました」
「―?あ、ありがとうなのだよ…」
と焦ってボールを拾ってこちらに持ってきた。昼間に見せたような憎めない柔らかい笑顔とともに。改めて褒められると悪い気はしないのだがさすがに少し照れてしまう
もう一球打とうと思いシュートフォームに入った瞬間こちらを見ている彼女が目に入り、ほんの少し。本当に少しだけ手に力が入ってしまった
その日の練習で初めてシュートを外した。でも俺の視線はボールには向いていなかった
決して目立つわけではない彼女に視線はくぎ付けで
――あ、スミマセン…あんまり見ていたら邪魔ですよね…
別に、邪魔では、ない…のだよ
だってまるで恋しているかのような視線で見つめてくるから
・