黒バス
□暑いあつい
1ページ/1ページ
暑い。とにかく暑い。
普段こもった体育館の空気の中練習しているのもあって暑さには割りと強い方である自分も辛い真夏の日差しにクラクラする
俺でさえ辛い、ということは…
ちらり視線を横に移すと汗をかいて今にも倒れそうなくらいバテている名無しさん。さっきから会話も途切れ途切れになってしまうほどだ
彼女はどうやら、夏が(というより日差しの暑さ、気温が)苦手なようだ。普段はにこにこ穏やかに微笑む名無しさんが今では見る影もない。…可哀想に
だが、今日の俺には最近ずっと辛そうな名無しさんを喜ばせられそうなアイテムがあるのだよ
フフフ…と遠くから見ている人がいたならば不審に思われる笑みを溢しても隣の名無しさんはこちらを見ていない
「名無しさん、明日は練習が休みなのだよ。たまには体も休めなければならないらしくてな」
「そうなの?緑間くん…うん、ゆっくり休んでね」
少し間を開けて微笑む彼女は寂しそうに見えた。一緒に出かけたくても優しい彼女のことだ、俺の体のことを優先したのだろう
そんな名無しさんが可愛いし、大好きだとは思うがたまには我儘も言って欲しいものだ
「だから、ここに行きたいのだが付き合ってくれるか?」
ぴらりと二枚のチケットを出すとそれをじぃっと見つめる名無しさん。文字を見て表情が輝いてきたのを確認し、俺は間違っていなかった、と嬉しくなる
「わぁ、これ…プールの招待券!!緑間くん、どうしたの?」
「高尾から奪っ…もらったのだよ。たまには名無しさんとゆっくり時間を取りたかったからな」
「ふふ、高尾君にお礼言わなきゃっ…あ、でも…」
「…どうしたのだ?」
空気が一変、急に眉が下がって申し訳なさそうな表情になる名無しさん。さっきまであんなに喜んでいたというのに
「うん…私泳げないし、ぷかぷか浮き輪で浮くくらいしかできないから、緑間くんが暇になっちゃわないかなって…」
理由を尋ねてみれば何だそんなことか
彼女はこういうところがある。何でも自分じゃない人優先になってしまうのだ。素直な性格ゆえに最初は喜んでいても後々の展開を予想してシュンとなる。
まぁ、欠点とも言えるその部分も助かるところは理由を聞けば素直に答えてくれるところだな、対処しやすい。
「そんなこと、気にしなくていい。元々俺もそこまでプールに執着があるわけではないし、名無しさんとだから行きたいのだよ」
「ん…そっか。えへへ、ありがとう緑間くんっ」
笑顔が戻ったことで俺も嬉しくなる。こんなにも一喜一憂を繰り返す彼女に釣られているのは紛れもない事実だ
・
というわけでやってきたプール。
着替え終わりに俺は早くも後悔し始めている。『プール=水着』という思考がなかった自分を憎んだ
「ごめんね、着替え慣れてなくって…」
頬を染めながらの上目遣いは反則だと思う。もっとも、俺からして見ればほとんどの女子が上目遣いになるのだが。
それにしても、となりを歩く名無しさんをちらりと見る。彼女らしい控えめな水着で露出は少なめ、にしても普段制服では見ることのできない柔らかそうな二の腕・少し開いた胸元から覗く谷間・いつもより多めに出てきている太もも…落ち着け、落ち着け真太郎、これはプールという少しむしむししている独特の空間も悪いのだ。お前は悪くないぞ真太郎…あ、ダメなのだよ思考が明後日な方向に向かっている
「緑間くん…?緑間くーん?」
「っ、すまない。どうしたのだ?」
まさか名無しさんの水着姿で色々妄想という名のトリップに出てましたなととは言えず、とりあえず彼女の話を聞くことに意識を向ける
「流れるプールにするかなー?って、緑間くんはどこがいい?」
「あぁ、そこでいいのだよ。ちゃんと浮き輪は持ったのか?」
「ふふっ緑間くんがふくらませてくれたんだもん、忘れないよ」
ただ単に俺が膨らませた、というだけの浮き輪をどうしてこうも愛しげに見つめるのか…そんな些細なことも彼女を愛しいと思う理由の一つで。
こんなところだ、公共の場所だ、とは思いつつも凄く抱きしめたい衝動に駆られた
だめだ、とりあえず水に入って頭を冷やすのだよ
「わ、わ、結構流れ早いね…流されちゃいそう」
「ん、気をつけるのだよ」
今にも流されそうな名無しさんの腕を握る。不意に触ったとはいえやはりいつもよりも近い距離にどきんとする。なんなのだよガキか俺は…
ありがとう、緑間くん。って微笑む名無しさんを見ていたらなんだか我慢できなくなってきた。耐えろ、耐えろ
「プールなんて久しぶりだよ〜緑間くん、本当に泳がなくっても大丈夫…?」
「全く、いらぬ心配なのだよ…何度も言っているだろう?俺は、お前と…名無しさんと一緒にいられればそれでいい。」
かぁぁぁぁっと真っ赤になる名無しさんの表情は誰にも見せたくない。もう気分はプールどころではない
・
「はぁ、名無しさん…ちょっとこっちに来るのだよ。」
「うん?……ちょ、と待って緑間くんっどこ行くの?」
ザブザブと水をかき分けてプールから上がる。訝しげな視線を寄越す名無しさんを放置してプールから上がったとたんに抱きあげる。
「緑間くん、どうしたの…私、何か気に障ることしちゃった?」
いつもよりも幾分か高い視線にビクビクしながら、こんな時でも自分が何かしたのでは?と相手を気遣う名無しさんが可愛らしい。全て俺の勝手だというのに
「ん、違うのだよ。ちょっと大人しくしていてくれ…すぐ着く」
悪いな。と小さい声で呟いたのは彼女に届いたのだろうかと思ったが気にする余裕などない。たどり着いた先は更衣室、女子か男子か悩んだが…そこは申し訳ないが男子更衣室にした。俺が女子更衣室に入った時の方が大変だろう。
少し扉を開けて誰もいないことを確認し、シャワースペースに入る。これで密室に近い状態で名無しさんと二人きり
という状況にも関わらず未だに首をかしげる彼女が可愛い半面もどかしい。まるで意識しているのは自分だけな気がして少し悔しい。
「緑間くん、さすがに男子更衣室は、ばれたらまずいかもしれないよ…?ど、どうした…んっ」
「ん、は…ぁ、っ名無しさん…!!!」
焦る彼女に構わず口づけると元から赤くなっていた頬がさらに染まる。この表情がたまらない…ぞくぞくするのだよ
声と音が漏れないように上からシャワーをかけるとますますいやらしい雰囲気になるから不思議だ。水着とはいえ肌に張り付く感じが普段からは考えられないほどの色気を感じる。
「ん、ゃあ…み、っまく…んぁっ」
「は…っ今、はキスまでで我慢するのだよ、名無しさん…そのうち、な?」
いつかきっと、いただきます
んぅ、だ…い好き。
ん、そうな可愛いことを言うからこんなことになるのだよ…
結局何をしたのか分からないまま、キスとシャワーにのぼせてしまった彼女を解放するまであと数時間
・