黒バス
□伝えて、伝わる
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私の彼は、とってもカッコよくって、モデルさんで背が高くて、少し可愛くて、優しくて…少しだけ恥ずかしい。
「名無しさんっち〜ねえ、一緒に帰ろう?美味しいクレープ屋さんあるんすよ!!ね?行くよね?」
すりすりという効果音が聞こえてきそうなくらい後ろから私を羽交い絞めにして頭をくっつけてくる彼・黄瀬涼太くんは私の恋人
「ん?どうしたんスか名無しさんっち…クレープ、嫌い…?」
止めて黄瀬くん、そんな目で見ないで…
「黄瀬くん、ちょっと苦しい。くっつきすぎです…」
あぁ、素直になれない私のばか。本当はすっごく嬉しいの。こうやってみんなの前でくっついてくれるってことは、彼女だって自信もっていいんだよね…?
黄瀬くんならもっともっと、というか顔レベル良く見ても中の中な私に比べて可愛い子なんてたくさんいるだろうに、あろうことか彼はあまり話したこともなかった私に告白してきたのだ。
同じクラスになってからずっと好きでした。付き合ってください。なんていつもとは違ったすごく真剣な表情で言われてしまったら断れる女子なんてなかなかいないだろう。
でも、私は彼のことをあまりにも知らなかった。モデルでバスケがすごく上手な人気者という認識しかなかった。こんな状態で付き合う付き合わないと答えるだなんて失礼だなと思った私が発した言葉は
「ごめんなさい。あなたのこと、あまり知らないので時間をください。」
正直過ぎる本音でした。そして、普段から言葉が足りない私はあまりにも考えなしに、短い言葉を紡いでしまった…と今では凄く後悔している。
ただ、その言葉にひるむこともなく彼は
「なら、知っていけばいいんスよっ!!!でも、うかうかして名無しさんっちを誰にも取られたくないから、まずお付き合いしてください。」
有無も言わせぬ笑顔でニコニコと彼が言った後にはもう携帯を取り出してアドレス交換が始まっていた。行動が早すぎる黄瀬くんにビックリしながらも正直に言うと彼のことは好きでもなかったけど嫌いではなかったので、はい…完全に流されてました
けど黄瀬くんと付き合うようになって、彼を知っていけばいくほどにどんどん夢中になっていく自分がいたのは紛れもない事実で。
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「名無しさんっち?ねー、あんまり放置されたら、俺、ちょっとだけ怒るかもしれないっすよ?」
「わ、ごめんね黄瀬くん…。」
むーっとほっぺたを膨らませている黄瀬くんに慌てて謝る。でも、さっき私がくっつきすぎって言ったにもかかわらず彼はまだぴったりと私についている。これが俗に言うオールコートマンツーマン…?
「んー良いっスよ!!早く行こう?」
最後にぎゅって抱きしめて、今度は手を掴まれる。
「……きーせーくーん…」
「聞こえないっス!!!」
あぁ、私がこういうの照れちゃうって知ってるのに、彼はいつもこうして手をつないで歩きたがる…。嬉しいけど、恥ずかしいというか、なんというか。
主に黄瀬くんが話して、私が相槌を打って。毎回そんな感じの私たちなんだけど、黄瀬くんはこれでもいいんだろうか…本当に、素直じゃない自分が嫌になる
「ね、今度はあのお店見てもいいかな…?」
ふと聞こえた可愛らしい声の先には私たちと同い年くらいのカップル。女の子がすごく可愛らしくて、となりを歩いている彼の手をくいっと引いてお話している姿
あのくらいなら、わ、私にも…でき…できるはず…!!!!
「きっ!!!せ、く…の、お店、い…」
「うんっ名無しさんっち、あのお店可愛いっスね。一緒に行こっか」
あー…まただ。私が言葉にしきれない分も黄瀬くんは気付いてくれる。凄くうれしいけど、このままじゃ、ダメだと思うの。甘えてばかりじゃ、ダメ
「ん、行く…」
でも出てくる言葉はこんなことばかり。
「あ、名無しさんっちに似合いそうなピアス発見!!!」
ニコニコ私とピアスを並べて見ている彼はとても満足気だけど、これは私が
喜ばせてるとは言えない気がする。
何か、何か、言いたいけど言葉が出てこない。うん、とかありがとうくらいしか紡がない私の口をあの可愛い女の子のと取り換えたくてたまらない。
「これ、どうっスか?買っちゃおうかなー…」
今度は自分のを選んでいたらしい黄瀬くんは、私に尋ねてきた。これは…チャンス!!!
「っ、うん、似合ってる。」
でもまた、一言。
決まりっすねって言いながら黄瀬くんは足取り軽く、会計へ向かって行った。
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「はい、これ貰ってくれる?」
「え…?」
「さっきのピアスが名無しさんっちに使って欲しいって言ってたから連れてきちゃったっス」
「えっ!?」
貰ってくれないと泣いちゃうっスよ?って差し出された袋の中には確かに先ほどのピアス。キラキラ輝くシンプルなゴールドは上品で、でもキラキラで…なんだか黄瀬くんみたい。
「でも、プレゼント…って言っても今日なんでもないよ…?」
「いーの!名無しさんっちと一緒にいられるだけで、記念日なんスから」
受け取るならせめてお金、と言う私と絶対受け取らないって言う黄瀬くんの攻防は少しだけ白熱したけれど、結局はクレープを私が払うという案で落ち着いた…でも値段が違うよー…黄瀬くん。
「よし、じゃあクレープッス!!はい、手繋ご?」
ぎゅって握ってくれる手は凄く大きくて暖かくて、なんだか黄瀬くんの優しさに涙が出そうになってくる。なんで私なんかにこんなに優しくしてくれるの?本当だったら怒ってもいいんだよ黄瀬くん。何も素直に言えないし、何も返せない私を怒ってよ
「名無しさんっち、何にする?バナナ好きだったよね?俺、こっちにするから半分こしようよ」
ほらまた、私が好きなもの二つ選ぶ。黄瀬くんは…?黄瀬くんの好きなものは?
テーブルに座る時も私が壁側。はい、って言って私に最初の一口くれるところも…全部全部、優しすぎる
「黄瀬くん、あの…え、と」
いつもありがとう。でも、そんなに良くされちゃうと、私どんどん離れられなくなっちゃうよ。大好き、大好き。
「あーもう、名無しさん可愛いっ」
もごもごと相も変わらず口ごもる私にいきなり抱きついてくる彼の顔はとても嬉しそうで
「分かってるよ?名無しさんが考えてることはぜーんぶ!そんなに可愛い表情で見つめられたら、分かっちゃうに決まってる。言葉が少なくたって、ちゃんとこっち見て話してくれるところも、表情にすぐ出て赤くなっちゃうところも、全部全部、伝わってるよ。大丈夫」
よしよし、って頭を撫でてくれる黄瀬くんはひょいっと私のクレープもテーブルにあった台によけて
「ねえ、ゴメン。名無しさんがあんまり可愛いから我慢できない」
空いた両手で頬を包んでこっそり隠れてキスをした。
ほら、伝わる
クレープも美味しいけど、やっぱり名無しさんが一番スね
私、食べ物じゃない…もん
あーもー、可愛い可愛い…!!!食べちゃいたいくらいっス!!!
だから、食べ物じゃ、ない…
何枚も上手の彼に最初から勝てるはずもなかった
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