黒バス

□甘くて幸せ
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「名無しさんちん、名無しさんちん。じゃーんっ」

声はなんともやる気なさげなんだけど瞳は心なしか輝いている紫原くん。彼の手にはケーキバイキングのサービス券が握られている

「あ、それってもしかして最近駅前にできた人気の…」

「そうだよー。なんかね黒ちんが名無しさんちんと行ってきてもいいよってくれたんだー」

黒子君!!!ありがとうっ!!!心の中で力強くガッツポーズしてしまうのも仕方のないことで、私は甘いものが大好き。紫原くんの次に好き。
共通の好み(言わずもがな、スイーツ・お菓子好き)をもった私たちはとなりの席になってすぐに仲良くなった
いつもお互い何か食べているものだから気になったのだ。

あれが美味しい、ここがお勧め。新商品が〜と話をしていくうちに男子とあまり話すのが得意ではない私も紫原くんの独特ののんびりした話し方の影響があってか彼とお話しすることが大好きになっていた。
そして彼のことが好き、ということを自覚してすぐに彼から告白を受けた時には信じられなくて頭がパンクするかと思った
彼曰く、「俺、ずっと名無しさんちんが俺のこと好きになってくれるの待ってたんだー」とのこと。かといって自覚してすぐにって言うことは私はよほど分かりやすいらしい…

付き合う、といっても今までのスタイルはあまり崩れず結局はお菓子を一緒に食べるのが幸せだったりします。強いて言うなら彼がスキンシップ激しいことが分かったくらい

「名無しさんちん、ねえ、俺話してるのに…むー」

「っあ、ゴメンね紫原くん。」

今も気付けば彼の顔が鼻でもぶつかりそうな距離にあって、心臓にとても悪い。そして目の前の彼の顔はほんの少しだけど意地悪な表情に変わって

「むー…どうしようかな。名前で呼んでくれたら許したげる〜」

「む、紫ば「敦」」

私の抗議の声をものともせずに遮る彼はやはりちょっと意地悪で、楽しそうな笑みを浮かべている

「ぁ、敦…く、ん」

「くんいらないけどいっか。許したげる〜」

口笛でも噴いちゃいそうなくらいご機嫌になった彼は「じゃあ、帰りに寄ろうね」って言って次の授業の準備に入る。準備と行っても彼は寝てるか食べてるか、だけど





まぁ、元をとる。だなんて考えなくても紫原くんがいれば確実に店員さんが可哀想なことになる。そして私もやはり好きなものとなると人並み以上には確実に頂くわけで

「マジでうまい。これ美味いね名無しさんちん」

ぱくぱくとハイペースで食べ続ける彼を見ているとこちらが幸せな気分になる

「はい、あーん。」

でもこれは許して頂きたい…あーんは恥ずかしい。

「紫原くん…あーんは、恥ずかしいよ…」

「どうしてー?俺、人にあげることなんて名無しさんちんにしかしないのにー」

見当はずれな答えが返ってきているが彼の手に握られたフォークはずっと私の口元に向けられている

「でっでも、みんないる…んっ」

「ど?美味しいでしょ〜?」

話し始めた口にぽいっと入れられたモンブランはとてもおいしい。そして可愛らしい笑顔つきでそんなこと言われてしまったら怒れないことは一目瞭然で

「ん、美味しいね。ありがとう紫原くん。こっちも食べる?」

「ん、あーん」

あーもう仕方がない…口を開けて今か今かと待ち詫びているんだもの…
いつも通りのんびりとお話ししながら二人でケーキを頬張っているとふと、周りの視線を感じる

「わ、かっこいいねあの子。背も高ーい!!」

「まーたあんたは…彼女連れだよ?」

「え、あれ彼女なの?釣り合ってなくない…?」

やっぱり紫原くんはかっこいい。とってもかっこいい。それに比べて私は「食べるの大好き」と言ったら、ああなるほどなって思われる程度にコロコロした体型に平凡な顔。
最近はだいぶ慣れたのだけど落ち込まないかって言うと嘘になる。耳をふさぎたかった。
分かってる、分かってるよ釣り合わないことくらい。ただ、彼はそんな私がいいって言ってくれた。その思いは信じたい。
「名無しさんちんといると楽しいんだー」って柔らかく微笑んで言ってくれた彼を信じたい。でもやっぱりダイエットくらいはしようかな…少しでも近づけるように




「む…名無しさんちん、またダメなこと考えてる」

「えっ?」

「ダイエットはダメー。俺と一緒に食べるの。名無しさんちんは食べてるところが特に可愛いんだから。」

いつもそう。彼は私の考えなんてお見通しで、バレてしまう

「だって、紫原くんに釣りあいたい…」

「大丈夫、まだ抱っこできるもん。ほら、こっちおいで」

え?って声を上げる間もなく、紫原くんがおいでって言ったのになぜか目の前に彼がいて抱きあげられた。さすがバスケ部…そういえばこないだ70キロのバーベルも持ち上げていたなぁ

「俺はね、そのまんまがいいなー。そのまんまの名無しさんが、好き。」

「むっ…あ、敦君…反則だよ。」

こんな時は名前を呼ぶんだから…本当に確信犯。そして店内だということも忘れていて気付いた時には店中の視線を集めていた

「ね?なんか言われたらその度にこうしてあげる。そしたら、みんな分かるでしょ?俺が名無しさんのこと大好きだって」

「ありがとう、でもとりあえず下ろしてもらってもいい…?結構恥ずかしいかも…えへへ」

ぶーって言いながら下ろしてくれる彼が屈んだ隙に耳元で「大好き」の一言を


大好き、大好き、


あーもう、名無しさんズルイ。そんな可愛いこと言ってたら俺、止まんないよ

止まらない…?って、え?ちょ、っと紫原くん、待って。ちょっと待って。

ちょうど食べ放題の時間も終わったし、とりあえず俺の家行こうー。お菓子食べながらくっつくの

え、紫原くんのお家!?お邪魔しても、いいの…?

これ無自覚でやるから怖いよね、ホント


実は振り回されてるのは俺?




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