黒バス

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駅で出会った彼は昨日の駅が最寄りなのだろうか。名前は?歳は?もしかしたら大学生くらいかもしれない。ますます遠のく私の初恋成就にめまいがしてきた。
諦めよう、それが一番いいことはわかっているけれどせめてお礼は言いたい。大げさな言い方だけど彼のおかげでどちらも失わずに済んだ。

「来てしまった…」

彼が普段電車を使わなかったら?むしろここが最寄りじゃなかったら?今日は出かけてなかったら?色々不安を抱えつつも向かう先は彼と出会った駅。
あれだけ目立つ子だもの、通ったらわかる…はず。本当に一時間くらいみてみてダメだったら帰ろう。うん、折角ここまできたんだし、そうしよう。
そう思って改札を抜けた瞬間、改札機のでっぱりに服の袖口をひっかけてしまい、反動でカバンの中をぶちまけてしまった。

「ちょっと待ってよ…私こんなドジだったっけ…」

恥ずかしい思いをしながらも中身をかき集める。こんなところに長居するといい迷惑だ。けれどもどうしてもスマホだけが見つからない。よりにもよってある意味一番大事なものを探せないだなんて…ほんとについてない。

「ねー、おねーさんて結構ドジ?」

「普段はこんなんじゃないです…最近調子がよくないだけです…」

「あっそ。ほら、これでしょ?」

「あ、スマホ…!ありがとうございま、…す?」

地面を一心不乱に探していたのでふいに話しかけられて下を見ながら会話を続けてしまった…と思ったけど彼はどうやら私のスマホを保護してくれたらしい。
これはまた恩人が一人増えてしまったと思いつつ顔を上げると

「靴脱げたりカバンぶちまけたり忙しすぎ〜」

へらっと笑いながら大きな手でスマホを渡してくれる彼はヒール事件の彼で。いや、よくやったよ私。また巡り合えるだなんて思ってもなかった奇跡だよ。

「あ、あのっ、先日は本当にありがとうございました…!というか、今日も…なんだか重ね重ねすみません…」

「別にいいよ、おねーさんおもしれーし。」

面白いと言われるとなんだか少しショックだけど笑った顔が可愛いということが分かったのでよしとします。
それにしても、背が高い。前に見たときもびっくりしたけど落ち着いてみてみると本当に背が高い。2m超えているんじゃないだろうか。

「あの、何かお礼がしたかったんですが…」

「え、もしかしてそのためにここまで来たの〜?

「え、いやそんなストーカー紛いの事は決して…!……ごめんなさい会えるかなって少し期待してきました…」

「ふぅん。」

じぃっと見つめられると嘘なんてつけなくて。つい白状したら短い返事と共にまた頭を撫でられた。

「じゃあ、今度このお店来てよ。」

「えっ?」

差し出されたのはケーキ屋さんのクーポン券。決してホストクラブなどではない。お店とか言われてびっくりしちゃった。
来週の日曜日2時に来てねと言い残して彼はいなくなってしまった。ストロークが長い分移動が速い…もう見失ってしまった。

結局御礼なんて出来なかった自分に悲しくなりつつも貰ったクーポン券を大事にしまい込んで夢見心地のまま家路を急いだそんな日曜日。





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