黒バス

□ss3
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「ごめーん。もう飽きちゃった。」

なんでもないことのように平然と告げるその瞳はひどく冷たくて。
こんな彼を見たのは初めてで、ビックリしたし投げられる言葉が悲しくて身体の震えがおさまらない。

「じゃあね、名無しさんちん」

食べ終わったお菓子を捨てるかのようにあっさりと私は捨てられた。
捨てる袋にさして興味がないのと同じように、彼は振り返ることもなく長いリーチを活かしてずんずん先を進んでいく。
追いかけることもすがりつくことも出来ない自分に嫌気がさすけれど、たしかに彼は私とは生きる世界が違うんじゃないかと思うほど輝かしい世界にいて、紫原くんが私の方を振り返ってくれない限りこの差は埋まることがないんだと気づく。今まで彼の優しさに甘えていたツケがこんなところでくるなんて…私は彼なしでは生きていけないくらいに夢中なのに



***



目の前が真っ暗になったかと思うとハッと意識が浮上した

「っ、ゆ、め…?」

目を開くことができて、夢だと言うことに気付きホッとしたけれど呼吸は浅い。まだ現実と夢の境が曖昧だ。彼がすやすやと眠っている姿がすぐに目に入る。酷く動揺しているせいか普段なら微笑ましく見つめてしまう可愛らしい寝顔を今は上手く見つめることが出来ない。

「むっ…ば、くん」

嗚咽は出さないように、彼を起こさないようにしたいけれど出てきた涙は止まってくれなくてそれならば一旦部屋を移動しようとお腹に乗っている大きな左手を避けようとするけれど、逞しい腕は思っていた以上に重たい上に上手く力を入れることが出来なくて苦戦してしまう。

「ん〜…」

それでもなんとか少しだけ持ち上げることが出来たとホッとした瞬間身動ぎした彼に抱き込まれてまた振り出しに戻ってしまった…というか悪化した。
こんな時まで優しい紫原くんはズルい。彼にとっては抱き枕に逃げられそうになってる程度のことかもしれないけど、今こんなに優しくされてしまうとまた涙が止まらなくなる。

泣くな、泣くな、彼は泣かれることを酷くめんどくさがるはずだ。泣き虫な私は何度も泣いてしまったことがあるけれどその度に彼は眉尻をさげて、困ったような顔を見せる。慰め方を知らない子供のように、お世辞にも決して軽いとは言えない私のことを持ち上げて泣き止んでーと懇願する姿を何度見たことか

せめて涙が当たることで彼を起こすことがないように頭を丸めて腕枕から逃れて、布団に潜り込んでみるけど効果があるのかないのか一旦泣き出してみるとやっぱり止まらない。

「ん、名無しさんちん…?」

少しだけ持ち上がった目はとても眠たそう。何度か瞬きをして私を探したかと思えば腕の中にいることに気づいたのか布団をめくってホッとした表情を見せた

「…いたし。焦らせないでよー…って、ちょ、名無しさんちん、何泣いてんの?え…?」

潜り込んでいた私を持ち上げるようにまた腕枕に戻して、お腹いたいの?とか、頭いたいの?とかオロオロしながら私の顔を覗き込んでは流れる涙を指で優しく拭ってくれる。こんなにも優しい彼を疑うこと事態がそもそも失礼なことなんだ。そう思えば思うほどまた涙は止まらなくなってしまう。

「ごっ…なさい、むらさきばらくん、」

消え入るような声でだけれどつい口から出てしまった「捨てないで」という言葉を彼はしっかりと拾ってしまったようで

「もー…またその話してるし」

少しだけふて腐れたような表情を見せたかと思えば

「あんね、オレの彼女ってね、すっげぇ可愛いの」

「紫原くん…?」

「名前呼ぶだけで嬉しそうな顔するしー、料理は上手だしー、まぁ付き合って三年も経つのにまだエッチもさせてくんねーくらい恥ずかしがり屋だし未だに名前で呼んでくんねーけど」

指折り数えながら話してる彼の顔はとても穏やかで

「ほんとはすぐ折れちゃいそうなくらい弱いくせに頑張るし。たまに要領悪くてつい手伝いたくなっちゃうんだけどねー。」

「うっ…ごめんなさい…」

言葉の端々で瞼に、額に、頬にキスが落ちてくる

「でも、オレこの子以外考えらんねーんだわ。」

だから泣き止んでよって悲しげな表情を見せられたら涙なんて引っ込んで紫原くんの腕の中に飛び込んでいた。

「名無しさんちん、大丈夫。大丈夫だから。だぁい好きだよ。」

私も大好きだよって返事をしようとするたびにキスに邪魔されて何度も言わされる羽目になったのもまた嬉しいくらいに私も彼が大好き。
何度も何度も不安になるダメな彼女でごめんね紫原くん。


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