黒バス
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from 紫原くん
title 明日
本文
朝9時にハム公前に来てー
急すぎるよ紫原くん!?
どうかしたのかな…と思いつつ、合意の返事と(暇人で悲しくなる)何かあったの?と聞いてみても「ひみつだし〜」としか返ってこなくて気になって仕方がない。とにかく明日に備えて今日は早めに寝よう。
読みかけの小説を閉じて眠りについたのは夜の11時30分頃だった。
***
「あ、名無しさんちんこっちー」
数メートル先からもすぐわかる彼を見つけて、今日も紫原くんはかっこいいなぁ可愛いなぁなんてトリップしていたところで彼が私に気づいたようで、ふにゃりとした笑顔をオプションに声をかけられる。なんだかこのシチュエーションは彼と初めてケーキを食べたときを思い出す。
「ごめん、待たせちゃった?」
「まだ9時前だし〜…って、名無しさんちんさぁ、前にも言ったけど警戒心なさすぎじゃね?」
こちらに微笑みかけてたのに、突然ハッとした表情を見せたかと思うと一変して不機嫌そうな様子の紫原くん。
黄瀬くんのチケットのあの日から彼はこういうことが多くなってる。
自分から誘うくせに、のこのこと来る私のことを怒るから解せない…
「でも、紫原くんが誘ってくれたんだよ?」
「行き先も言ってないのにどうしてくるのー?いきなり変なとこ連れてかれるかもしれないじゃん。」
「秘密って言ったのは紫原くんなのに…」
「だって男はミステリアス?な方がいいんでしょ?」
室ちんが言ってたーなんて言ってるけど室ちんさん彼になんてことを教えてるんですか。ミステリアスどころじゃないよもはやここ最近の彼の言動は未知との遭遇だよ?
「じゃあもう来なければいいの…?」
彼が何をしたいのかは分からないけれどもう私もそろそろどうすればいいのか分からない。どうしてこんなに振り回されてしまうのだろうか。理不尽すぎるよ紫原くん。惚れた弱味握られ過ぎてる私も悪いってところは否めないけど。
「っ、それはダメだし。名無しさんちんはオレと遊ぶの。」
行くよって言って彼の大きな左手に捕まる右手
「名無しさんちん、ほんとに手ぇちーさいよねー」
またも表情が変わって今度は上機嫌だ。少しだけ手を持ち上げてまじまじと握った手を見つめている紫原くんを見ているとなんだかこう、なんとも言えないけれど顔が熱くなる。
「あり?顔赤いよー?」
「赤、くないよ…!なんでもない!」
変なのーって言いながらすたすたと進んでいく彼に着いていくと、たどり着いた先は
「水族館…?」
「うん。名無しさんちんほら、行こー」
水族館なんて久しぶりだ。そわそわと浮かれてしまい、そのまま急ぎ足で入場券を二枚買おうとしたらむっとした顔で子供扱いすんなしって怒られて大人しく彼に奢られることに。
「…お昼は私が払うからね?」
「だから、いいの。大人しく奢られてー。」
大学生とはいえ、まだ学生の彼に奢られっぱなしというのも心苦しい。
だけど彼にはそんな思いが届くこともなく一蹴されてしまう…
「あ、そーだ。じゃあさ名無しさんちん、今度会うときにお菓子作ってきてよ」
「…お菓子?いいけど、私が作るお菓子本当に普通だよ?」
「いーの。それが食いてぇの。」
にんまりと笑う彼を見て断ることなんて出来ないから了承したけれど練習しなければ…本当に普通のお菓子しか作れないよ私。
「あ、ペンギンいるよー。」
「おおおお…可愛い…可愛いね紫原くん…!」
あの何を考えているのか全くわからない鋭い目付きとか、最高だよね。って熱弁は彼には響かなかったらしい。けれど私が満足するまでその場を動かないでいてくれる彼の優しさがとても嬉しい。
「あ〜アザラシ!アザラシだよ紫原くん!」
「見たら分かるし。名無しさんちん本当に好きなんだねー水族館。」
予想以上だわって彼の呟きを聞き逃さなかった私は
「え、好きって言ったっけ?」
「いや、名無しさんちん見てたら分かるじゃん。手帳もストラップも水族館。」
カメラモードにしっぱなしで握りしめてたスマホから揺れるストラップを触るために少しだけ屈んだ紫原くん。彼は少しだけ呆れ顔で…お顔が、いつもより近い。
「まぁ、名無しさんちんの楽しい顔見たかっただけだし。オレはマンゾクしてる。」
「て、天然タラシだ…でもありがとう、すごく楽しい。」
「天然じゃねーし、狙ってやってんの。だからさ、早くオレを好きになってよ。」
「………え?」
「だーかーらー、オレを好きになれって言ってんのー。」
ぶーっと頬を膨らませて片手で私の頬を掴む。
「ちょっと、まって。あの、頭の整理が追い付かなくて。あのね、紫原くん、あの、」
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