黒バス

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数日前から違和感はあったけど仕事が忙しいと言い訳をして管理を怠ったのは自分なわけで。
ずびずびと止まらない鼻水も、ごほごほと咳き込んでしまうのも、ついにはくらくらとしてきた身体も全て自業自得。
どうにもならなくて、会社を休んで病院にいって薬をもらったらあとはひたすら眠って回復するだけだ。

「…ん、むらさきばらくん…?」

うとうととベッドの中で眠りにつく寸前に彼からのライン通知がきてスマホを手繰り寄せると

ー 今日の帰り迎えに行っていー?

思いがけないお誘いに乗っかりたいけど今日は頑張れそうにもない…申し訳なく思いつつも風邪を引いてしまって動けそうにないことを伝え、返事を確認することなくそのまま眠りについた。


**

「…え、なに…?」

ピンポンピンポンピンポンと取り立て屋もビックリな勢いで鳴るチャイム音に意識を持ち上げられて、ふらふらとインターホンまで行くとまさかの人物

「紫原くん、どしたの…?」

「どーしたじゃねーよ…っ、心配したし…っ…」

なんだなんだめちゃくちゃ怒ってる…とりあえずオートロックを開けて紫原くんが上がってくるのを玄関から顔を覗かせて待つ

「名無しさんちんなに外でてんの…早く布団入って」

むっすぅとした顔で走りよって来たかと思ったらぐいぐいと扉から奥へ押される。ちょっと痛い。

「紫原くん…ちょっと、ねぇ、待って。そんな汗だくのままでいたら風邪引いちゃう…タオル…」

「こんな時にオレのこととかどうでもいいし。すっげぇ心配した…」

ラインの返事もねーし、電話も出ねえし何かあったかと思った…ぎゅうぎゅうに抱き締めながら少し怒った様子で言われた言葉を聞いて不謹慎だとは知りつつも彼がこんなにも心配してくれることが嬉しかった。

「うん…ごめんねあのあと寝ちゃって、音聞いても全然起きられなかったみたい。」

「これでチャイム鳴らしてもでなかったらドア壊すとこだったし」

「おお…それは警察呼ばれるから止めようね…」

他愛ない話をしながら抱き抱えられてベッドまで運ばれる。
紫原くんの体温にホッとしたせいか、朝一度薬で下げた熱がまた少し上がってきたようで段々と頭が回らなくなってきた。

「名無しさんちん寝てていーよ。お粥作ってくるからそれ食って薬飲んで。」

手をぎゅっと握ったあとに頭を撫でられる。どうやら彼はいつも以上に私を甘やかすつもりらしい。

「ふふっ紫原くんの手料理楽しみだなぁ」

「…そんなこと言ってないでさっさと寝るの」

これで終わりとばかりに額にキスを落とした後にこちらを見つめた紫原くんはとても優しい顔をしていて、私は吸い込まれるように眠りに落ちていった。


**

「…ん……て、名無しさんちーん、起きて」

ゆっくりと意識が浮上していって、重いまぶたを開けると

「あ、起きたー。」

はい、手こっちちょーだい。って言われてつい、素直に紫原くんの方に手を伸ばす。まだちょっと頭がクラクラして上手く回らない…
座るように上半身を起こしてもらい、膝までしっかりと布団をかけられる…至れり尽くせりだ

「こんなにくっついても逃げない名無しさんちんとかホントにヤバイんだけど…意味わかんない…可愛い」

紫原くんにツッコミを入れる余裕もなくてごめんね…だけど可愛くないからねそこだけは勘違いしないでね
おぼんなんて気の効いたものがないせいか器に入れて彼が持ってきたお粥はとても美味しそうで、そういえば朝からなにも食べてないことを思い出した。

「名無しさんちん名無しさんちん、はいあーん。」

「…っ、あーんはしません。」

「だめー。全然力入らないくせに強がらないのー。」

「しない…恥ずかしいもん」

「はい、あーん」

「………」

「………」

ぐぅぅぅっと鳴った私のお腹を合図ににらめっこが終了して、私は恥ずかしさから顔が熱いし、紫原くんは笑いをこらえきれずに震えてる。
にこにこと笑った紫原くんがなおも口元にれんげを差し出してくるのでもういいやとどこか投げやりになってぱくりと頂く。美味しい。とても美味しい。

「ん〜っ美味しい…!紫原くん、料理まで出来ちゃうの…?」

「普通のお粥なんだけど…名無しさんちん大げさすぎ〜」

こんなところで彼女力をふんだんに発揮してくる年下の彼氏はずるいと思う。頭をなでられながら口元にどんどん運ばれてくるお粥を食べるのを繰り返しているとなんだか子供扱いされてるけど不思議と不快じゃない。

「…紫原くん?」

「ん…なーにー?」

無事に全て食べ終わって薬を飲んで横になるとまた睡魔が襲いかかってきたけど隣からの視線がなんだかむず痒くてそっと声をかけるといつも以上に穏やかな声が聞こえてくる。
優しく頬をつつかれて本当に子供になった気分

「このまま帰らないで欲しいなぁなんて…言っても怒らないですか…とか、言ったり、言わなかったり…」

体調が崩れると人は弱気になるらしい。普段は眠そうにしている瞳を大きく開いてこちらを見る紫原くんを見ると、自分は何を言ってるんだと気付いて語尾を誤魔化そうとしてみるけど全く効果はないようだ。

**
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