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□勝己(MHA)5
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目が覚めて、一番に視界に入ってきたのは苦手だったはずの赤い瞳
「……起きたかよ」
「……ん、」
慣れ親しんだベッドに寝せられているということは彼が玄関から移動してくれたのだろう…申し訳ない。泣きすぎて、吐き出しすぎて、頭の中はだいぶすっきりはしたけれど目がひどく重たいし喉ががさがさだし。そういえばお母さんは帰ってきてるのかな
「お前のお袋さん、帰ってきてんぞ」
「えっ…」
「ぐるぐる顔に出過ぎなんだよお前。部屋に運んですぐくらいに帰ってきてた。」
話を聞くと私の彼氏だと勘違いされたんだとか…本当はそうだって答えたかったけど友達だという説明に落ち着いたらしい。
「つか、いい加減離してくんねぇと俺そろそろ限界きちまうけどいいんか?」
「はなす?」
「…手」
「っ!?あ、ご、ごめんなさい…!」
気付けば爆豪くんの右手を両手で握りしめていた。寝ている間ずっと握っていたらしく、手にはじとりと汗が滲んでいた。ふわり、香るニトロの香り
いつの間にかこの香りにも慣れたみたい
「名無しさん」
「…え?爆豪くん、今…名前、」
「俺は世界一のヒーローになる。強くなる。無個性のお前なんていくらでも護ってやる。だから、俺にしろ」
「……爆豪くん、あのね、私、」
「返事ははいかイエスだ。それ以外なら聞かねえ」
「うっ…」
「んで、よりによってクソ髪が…」
「あ…爆豪くんあの、彼の服を返したいのですが…」
思い出した。爆豪くんについてきてもらえばいいんじゃないだろうか。おずおずと未だ隣にいる彼を見ると深いため息
「んなもん俺が返しておく」
「でも、私たいしたお礼も言えてないの」
「そんなんヒーローなら当たり前だっつの」
「で、でも…」
「……あ"ーわかった、あいつ朝遅ぇから昼休み終わりに付き合ってやる」
結局彼が折れてくれる形で話し合いは終結する。あ、手を握ったままだった…手の力を抜いて離そうとしても依然繋がれたまま。さっき離せって言ったのは爆豪くんなのに。
「あ、の…ばくご、」
「なぁ、さっきの返事寄越せ」
「わざわざ無個性の私じゃなくたっていいじゃない…」
つい、口から出てしまった一言に彼の手に力が入ったことがわかった
「知らねーよ。お前がいいっつってんだろうが」
「でも、」
「でももだっても聞かねえ。お前は俺のもんだ」
「私、ただの足手まといだもの。何の役にも立たない無個性だよ」
「俺が強いからいいんだよ。つか、お前は俺がそこにいろっつったらいうこと聞いてるだけで充分だ」
だめだ爆豪くんに勝てる気がしない。
強い意思をもった瞳に見つめられたら自分の意見なんて言えなくなってしまう
「しばらくはお前のだらだらめんどくせえペースに合わせてやろうかと思ったが据え膳してる内に他にとられるなんざごめんだ」
「っ、」
おでこがごつんとぶつかって至近距離で目が合う。捕まれた肩に反射的に昨日を思い出してふるりと身体が震える。拒絶の言葉はなぜか出せなくて、おずおずと震える手で彼の左手に触れてみると少しだけ不貞腐れた顔をして離れる左手
「あ"ー…わぁったよ。そんかわり今後俺以外に触らせたらそいつもお前もぶっ殺す」
「んっ、」
ぎゅうっと一瞬だけ抱き締めて離れる身体。即座に立ち上がって彼は部屋からいなくなってしまった。いっぺんに色々なことが起こりすぎている。
遠くで母と爆豪くんが会話していることに気付きなんだかむず痒い。「目、覚めたみたいなんで帰ります」だなんて…爆豪くんが敬語使ってるだけで私としてはレアな気がする。お母さんも引き留めてるみたいだけど本当に彼は帰ったようだ
「名無しさんにも素敵な彼がいたのねぇ…」
ビックリした顔で部屋に入ってきた母に彼ではないと説明することにしばらく時間がかかったことは言うまでもない。
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