黒バス

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日曜日ーお部屋の掃除も終わってしまって暇をもて余していた。家でゴロゴロするのもいいけれど近所の大きな公園まで行って、外で本を読むのも良いかもしれない。

新しく出来た公園は芝もきれいに整えられているし、噴水も立派なものが設置されていてベンチの量も申し分なし。
運動公園のようなものを兼ねているからなのか休日はわりと賑わっている。本を読むのに賑わいは気にならないので、たまに気が向いたときに利用しているここは最近のお気に入りスポットだ。今度は紫原くんも一緒に来てくれないかなぁ…彼は散歩とか好きじゃなさそうだけど。名無しさんちんおばーちゃんみたいだねって笑う姿が容易に想像できる。

「ねー、あの大学生チームほんとやばいよ!めっちゃ顔レベル高いの…!みんなかっこいい〜」

「あっ、試合始まっちゃう!早く行こう!」

今日は随分女の子が多いなと思ったら…何か小さい大会でもやってるのかな。人だかりはそんなに好きじゃないけど好奇心は人並みにあるので少しだけ目線をそちらに移すとバスケットコートが見えた。

「キャーッ氷室さ〜ん!」

「黄瀬くんかっこいい…!」

黄瀬くん?黄瀬くんってあの、黄瀬くん?
いよいよ気になってしまって少しだけコートに近づくとお目当ての黄瀬くんよりも先に見つけた紫色

「紫原くんだ」

口からこぼれた呟きを拾った人は誰もいないだろう。考えてみれば、あの身長だもん。バレーかバスケットかなという予想はズバリ的中してたんだ。
コート上を動き回る紫原くんはすごく迫力があって、とてもかっこよくて、釘付けになってしまった私はそこからずっと動けずにいた。
敵から奪ったボールをそのまま相手ゴールまで運んでダンク。
え…?何、今の…なんかすごいくるって回りながらダンクしてたけど…目は回らないのかな?って、しかも紫原くんゴールもいじゃった…こんなの漫画でしかないかと思ってた

「アツシ…デート出来なくて残念だったのは分かるけどゴールにあたるのは止めてくれないか。ここ出禁になっちゃうだろ。」

「そうッスよ紫原っち!まぁたゴール壊しちゃって…」

「うるさいし。別に機嫌悪くねーし…!?」

不意にゴールから振り返った彼と目があったのでとりあえず控えめに手を振ってみる。
紫原くんはすっごく驚いた顔をした後に、彼は何故か悲しそうな顔をしてこちらの方へ歩いてきた。

「名無しさんちん…どうして、いるの…」

「お疲れ様〜。お散歩しに来たらちょうど紫原くんが見えたの。紫原くんの謎、一つ解けちゃったね。バスケットだったんだ。」

どうしてだろう、彼の表情はとても暗い。うつむきながらそれこそ世界が終わる瞬間のような顔をしている紫原くんが心配で、顔を覗き込もうと近づいてみると

「…っ!?」

「あ、アツシ!何してるんだ!?」

「俺、ちょっと抜けるからあとよろしく。」

「もー!ワガママなのは緑間っちだけで十分ッスよ!?でも紫原っち止められる人がいるわけでもないし、諦めるしかないッスね…」

「むっ、紫原くん…!?あの、ちょっと、」

後ろで紫原くんのチームメイトさんたちがワイワイ言っていることは少しだけ聞き取れるけれど、何よりも子供のように前から抱き抱えられているこの体勢は頂けない。主に私の心臓によろしくない。
私の懇願もむなしく、彼は全く返事をしてくれない。いくら彼がスキンシップ大好きだと言ってもこんなに密着したことはないし、こんなにも無言の紫原くんも初めてだ。さっきまで運動していたせいか常より高くなっている体温が伝染してゆでダコになってしまいそう。

「紫原くん…?どうしたの?」

すとん、ベンチに下ろされてやっと自由の身になれると思ったのに今度は隣でうつむいてだんまりさん。紫原くんがわからない…

「もし、バスケットやってることがどうしても知られたくなかったことならわざとじゃないにしてもごめんね。」

隣の彼の落ち込みようは、まるで叱られるのを待っている子供のよう。何がどうしてこうなってるのかわからないけれど話の流れからなんとなく、バスケットが理由じゃないかなと思い話しかけてみると当たりだったようだ。

「あんね、俺…」

「うん」

「名無しさんちんに、嫌われたくなくて」

「…どうして?」

「バスケやってる時ってリミッター外れてるってゆーか…名無しさんちんだって、怖かったっしょ…?」

「ん?」

おずおずと覗きこんで首を傾げる彼につられて私も首を傾げる。怖い?誰が?


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