黒バス
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紫原くんは大きい。とにかく身長が大きい。そして頼りがいがあって私はいつも頼りっぱなしだ。
「えっ、末っ子なの?」
「うん。にーちゃん三人と、ねーちゃん一人〜俺が一番下だよ」
「てっきり妹さんとか弟さんがいると思ってた…」
だってこんな言い方もあれだけどすごくしっかりしてるんだもの。
ほら、そんなこんな言ってる間も車道側は紫原くんが歩いてくれてるし、しっかりと繋がれた手は大きくて暖かい。
食料を買って帰りたいと言えば重いもの買えば?って言ってくれるしなんですかこのハイスペック彼氏は
「送ってくれてありがとう。でも本当にいいんだよ?紫原くんに会うまでは一人で帰ってたんだし…」
「だめー。俺が安心できねーの。帰るの9時以降になるなら絶対連絡ちょうだい。約束破ったら怒るからね。」
指切りげんまんをして、約束。子供っぽいけど絡めた小指にキスされると途端に熱くなる顔。やっぱり紫原くんには敵わないなぁ
「うーん、紫原くんだって練習とバイトで疲れてるのし…」
「名無しさんちんに会ったら元気になるしー」
へらっと笑った顔が私は大好きだ。
「あ、着いたね…今日もありがとう。あのっ…お、お茶でも飲んでいく?」
結構勇気を出してまだ離れたくないことを伝えてみると思ってた以上に頭を悩ませる彼の姿が視界に入って、なんだか失敗した気分だ。わー…言わなきゃよかった…
「うーーーん…すっげえよりたいけど、二人きりで家にいるとかちょっとヤバそうだから止めとくー。名無しさんちんのこと食べちゃうかもしんねーし。」
「わー!ちょ、わっ、」
ストレートな物言いに私の顔は真っ赤だ。ついでにぎゅうっと抱き締められるオプションまでついてしまったらもう耐えられない
必死に耳を塞ぐことでやり過ごそうとしたら両手は彼の大きな手に捕まってしまって空いてしまった耳元に逆に囁かれてしまう
「もーちょっとだけ我慢して。じゅーでんちゅーだから。」
「…っ、」
ふるり震える身体をしっかりと抱き込まれてもう勝ち目はない。最初からないけれど。
「…っ名無しさんちん!?」
「私もじゅーでんしてみた…」
「…可愛すぎるから許さないー」
最初よりもきつく抱き締められてぐぇっと色気のない声が出てしまって恥ずかしいけれど紫原くんの機嫌がいいことがなんとなく伝わってきて私の頬も思わず緩む
このまま連れて帰ってもいいー?だなんて彼ならやりかねないことを言われて明日も仕事なので丁重にお断りしたけれど本当はもう少し一緒にいたかったなぁだなんて思いはそっと胸の内にとどめておくことにして名残惜しいけれどお別れのあいさつをして帰宅。
「っ!わ、とっ…」
紫原くん、そろそろ家についた頃かなーなんて考えてたら聞こえた通知音に過剰に反応してスマホを落としかけてしまうだなんて…恥ずかしい
名無しさんちん、おやすみー。
たった一言だけど連絡をくれる彼が大好きでたまらない。
おやすみって返事をしてベッドに潜り込むけどドキドキして眠れないよってことを伝えたらまた彼は少し呆れた顔で笑うのだろうか
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「名無しさんちん、あのさぁこないだ見たいって言ってた映画のDVD、室ちんから借りたんだけど」
「えっ、ほんと…!嬉しいっ」
恋愛ものの映画にしては珍しく3部作に渡った作品は見てみたいと思いつつもいつもどこかしらが抜けていてタイミングを逃していた。ほとぼりが冷めるまで我慢かななんて思っていたのだけどまさか氷室さんが持っていたとは…
「一緒に見るー?名無しさんちんとならたまには映画もいいかな〜」
「うんっ!あの映画長いらしいから今週末、紫原くんのお家に見に行ってもいいかな?」
「いいけどそんなに長いの〜?」
「3時間弱が三本だから徹夜になっちゃうかも」
「…てことは泊まり?」
「事実上は…ダメかな?」
考え込む紫原くんを見ているとなんだか自分が悪いことでもしているような気分だ。
「あ、えと…何か都合悪かったら私の家でもいいし…!」
映画鑑賞とはいえいつもよりも彼と一緒にいられることが嬉しくてはしゃぎすぎていただろうか。身長差がありすぎるせいで表情が読み取れない。
「ん…いや、オレん家にしよ。」
なんだかんだで了承をもらえてホッとする。けれど迷惑じゃないかなだなんて今さらながらに考えてしまう。
「名無しさんちん?どしたの〜…?」
「いや、あの…め、迷惑だったかななんて…ごめんね紫原くんといつもより長く一緒にいれると思ったらはしゃいでしまって…」
そういう可愛い事言ってたらどうなっても知らないからね。だなんて声は私に届かないほど、私は初めてのお泊りに年甲斐もなく浮かれていた。
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