黒バス

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「紫原くん、何食べたい?」

「ん〜ハンバーグ。」

リクエストを問いかけてみたは良いものの難しい答えが返ってきたらどうしようかと思ったけれどハンバーグなら私でも作れる…良かった。紫原くんは自炊しているみたいだし、私よりも料理が上手なのでなんだか緊張してしまう。
そして何よりもこないだは気づかなかった事実に気づいてしまったのだ。恋人同士のお泊りとは何を意味するのか。
気付かないままでいたかった…私が手を出したくなってしまうような女性ではないとは知りつつもやはりお付き合いしているからにはそれなりに何かしらがあってもおかしくないことに気づいたのは彼と約束を取り付けたその日の夜。よりによって紫原くんの家だなんて…しかも初めて彼の家に行くのだから緊張しないわけがない。

あまりに動揺したせいで親友に相談してしまってついに名無しさんに春が来た!と張り切って泊まり用の部屋着やら下着やらを選ばれる羽目になってしまった。

「名無しさんちん?どうしたの?行くよ〜」

くいっと手を引かれただけなのに触れている部分が妙に熱い。

「ん、なんでもないです…」


**


到着した彼の部屋は物が少なくて綺麗に整頓されていた。

「おじゃまします。」

「ん〜その辺座っててー」

その辺の候補というとテーブル近くのカーペット上か、彼の体格に合わせてなのかかなり大きめなソファの上。
悩んだ末にソファを背もたれにする形で床に落ち着くことにした。

「ほい、ココアでいい?」

「ありがとう。美味しい〜」

とすん、横に紫原くんが座る。距離が近いせいで少しだけ触れる肩。投げ出していた左手をつん、とつつかれて思わずビックリした声が出る

「名無しさんちん、ビビりすぎ〜別にとって喰ったりしないのに。」

ふにゃり微笑んだかと思うと優しくキスをされる。

「それともそのつもりで来てた?」

こてんと首を傾げて問いかける顔は少しだけ意地悪な表情で、つい必死になって否定してしまう。実は覚悟だって固まっていないんだもの。

「………名無しさんちんのばか、バーカバーカ。」

「ば、ばかじゃないもん…」

あまりに必死に否定したせいか頬を膨らませて膨れる紫原くんを宥めることは困難で、しばらく私の肩にのしかかる形でずっと手を握ったり放したり。
怒っててもこうしてくっつきたがるところはとても彼らしいし可愛らしい。

「…オレ、怒ってるんだけどー?」

「あっ、ちょ…!?え!?」

「はいはーい。再生ー」

思わず頬が緩んでいた私を見やってまた機嫌が悪くなってしまったらしい。
ソファの上で後ろから抱き抱えられる体勢に落ち着いてしまっては映画どころではない。
オープニングの提供画面が流れ始めても心臓がうるさくて集中出来そうにない。

「む、紫原くん…!?」

「なにー」

「あの、何してるの…?」

「名無しさんちんのほっぺ、触ってる。」

「なぜゆえに」

「触りたいから?」

「いじわるだ…紫原くんが意地悪だ…」

「今さらじゃない?」

ちゅっと頬に口づけられてすでに私はパンク寸前だ。

「邪魔してごめーんね?見よっか。」

「うん…え、ちょっ、待って、この体勢はど、どうすれば…!?」

「たまにはこーゆーのもいいでしょ〜?」

どうやら満足してくれたらしい彼はそっと私を離してまた隣同士に戻る。
かと思いきやぐるりと回る視界。視線の先にはテレビ画面、ということは変わらないけれど先ほどよりも視界が低い。紫原くんに膝枕をされていることに気づくのにワンテンポ遅れてしまったのはあまりの展開に頭が追い付かなかったから。

筋肉質な固めの太ももは思っていたよりもずっと(いや、膝枕されるなんて想像したことなんてなかったけど)居心地が良かった。頭に置かれた手がそのまま撫でつけられる。
思わず頬が緩んで心地よさに負けて瞼が重くなってきた。

「え、ちょっと待って名無しさんちん…ここで寝るとかずるくない?」

という紫原くんの声は聞こえたような聞こえないような。そのまま寝落ちしてしまった私は結局彼の作ったハンバーグをひたすらに謝りながら食べる羽目になった。


**

「本当にごめんなさい…私何しに来たんだろ…」

「名無しさんちん気にしすぎー。別にいいじゃんオレが起こさなかったんだから。」

「いやそもそも人様の膝の上で寝れちゃう時点でね、ちょっと私大人としてどうなのかなと…」

「オレ的には寝顔じっくり見れたしいいけどね〜」

「あぁ…意地悪だ、やっぱりちょっと怒ってるでしょ…?」

怒ってないってば〜なんて間延びした返事をしている紫原くんの表情は柔らかくて、機嫌が悪いようではなくて安心する。二人並ぶソファの上でこんなやり取りをしているうちに最初の緊張はどこへやら、むしろいつも以上に安心しているのはなんでだろう。


***
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