黒バス

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「…三日目、か。」

紫原くんの合宿が始まってから今日で三日。なんだかんだ彼は大抵帰り道に会いに来てくれてたというか迎えに来てくれてたのでこんなに会わないことはなかなかなかった。
さすが大学の本格的な合宿なだけあって連絡すら取れないのだろうことは予想がついたし、耐えるしかない。私は耐えられる。耐えてみせる。
練習が何時までかもわからないしせっかくの休憩の邪魔もしたくない。もし寝てたら可哀想だもの。
なんて大人のふりをして耐えること三日間。そろそろ限界が来そうです。紫原くんと会う前はこんなことはなかったのになぁ
無意識のうちに彼からもらったくまさんに話しかけながらひたすらに撫でている始末だからこれは危険だ。

寂しいなー寂しいなーと考え始めるともうそれしか考えられなくなってしまって頭の中は紫原くんのことだらけ。今日会社で頂いたお菓子がとても美味しかったから今度一緒に食べたいなだとか、紫原くんが見たいって言ってた映画のDVDがタイミングよくレンタルから返ってきてたから借りてきちゃったとか、買ってきてくれたこのくまさんは本当に優秀でいつも安眠できてるよって言いたかったり。

「LINEくらいは、送ってもいいのかな…うーん…」

ダメだ。あの紫原くんが我慢してるんだもん…邪魔しちゃいけない。もう寝てしまおう。考えたら敗けだ。

「おやすみなさいくまさん。」

日課になりつつあるくまさんとの挨拶を終えて布団に入り込むと驚くほどすぐに眠りに入っていった。明日の夜は気分転換に部屋を片付けて彼を迎え入れる試作品を作ろう。


**


五日目の朝。こんなに長い五日間は初めてだった…よく考えると紫原くんの家は別にあるのだからうちにまっすぐ来てくれるとも限らないのに、日曜日だからってこんな朝早くから待機することに意味はあるのだろうか。相変わらず彼からの連絡はないままだし、もしかすると今日は来ないかもしれない。早く会いたいなぁ…とりあえず買い物にでも行って気持ちを落ち着かせよう。
身支度はすぐ終わったからそのまま近くのスーパーへ行き、食料品の買い込み。あれもこれもと買ってる内にけっこう時間を潰していたみたい。

「…?」

そのままマンションに向かって歩いていると遠くに見慣れた紫が見えた。

「ちょ、名無しさんちん…マジで心配させないで欲しいし…」

紫原くんだ。本物の紫原くんだ。

「スマホちゃんと持ち歩いてよね…意味ないじゃん…インターホン鳴らしても出ねえからまた倒れてるのかと思ったし…?」

「紫原くんだ…久しぶりだ…」

「名無しさんちんどしたの?え…?」

「五日間長かった…紫原くんが我慢してると思ったら、連絡も出来なくて…ごめんね。別に、私からすればよかった。もう、すっごく寂しかった…」

たまらず駆け寄った上に彼の手を捕まえて、この上なく恥ずかしいことを言っていることには気づいているけれど止めることもできない。

「ねー、そこはぎゅーって抱きついて欲しかったんだけど?」

「ふふ、だって紫原くんにぎゅーってして欲しいんだもん。」

「なにこの子可愛いすぎだし…こんな名無しさんちんが見れんなら合宿たまにはいいかもーって思ったけど、やっぱ無理。」

ただいまーって抱き締めてくれる紫原くんの顔が嬉しそうで私も嬉しくて、うん、白昼堂々とバカップルしてしまってることには気づいたからそっと彼の手を引いて、部屋まであと少し

「なんか電波ない山奥だったー…連絡できなくてごめん。」

「おお…ずいぶんハードな合宿だね…」

ほんと、ありえねーし…ってぶつぶつと文句を溢す紫原くんだけど繋いだ手は優しいまま。

「五日くらい平気だと思ってたんだけど…私別に一人でも平気だったのに…」

「それくらい名無しさんちんの生活にオレがいるってことっしょ〜?オレ的には嬉しいしー。」

「う…否定できない…」

「あのクマ、役に立った?」

「うん、ありがとう紫原くん。」

合宿が終わってくたくただろうに真っ直ぐうちに来てくれたことは彼の服装と荷物からわかる。それだけですごく嬉しい。突然のプレゼントだって、全て計算ずくのものだったり。

「なんだろうな…これ、彼氏力の暴力?」

「名無しさんちん時々変なこと言うよね〜」

なークマゴロウ?(そんな名前だったとは知らなかった)だなんてくまに話しかける紫原くんが可愛い…今度は可愛いの暴力か…

「ねえ、それよりさ名無しさんちん。」

「ん?どうしたの?」

「こいつぎゅってした分以上にオレのことぎゅーってしてよね〜合宿中ほんと名無しさんちん不足で死にそうだったし…」

「んなっ…ちょ、落ち着こうか紫原くん…?」

「落ち着いてるし」

がおーって言いながら押し倒されて抱き締められて、でも合宿の疲れのせいかそのまま紫原くんは寝てしまうのだけどそれはまた後日の話


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