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□勝己(MHA)2
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「…っわ、」

なんかテープみたいなのでグルグルだし、殴りあいだし(赤髪の彼も止めるためとはいえなかなかに荒っぽい)なによりも爆発音が大きい。みんなが遠巻きに見ている中、気づかない内に後退りしてしまっていたらしい。

「っぶね…」

破壊された瓦礫の小さな欠片に足をとられて転びかけたその時、大きな手に捕まった事によって地面とこんにちはな事態は避けることが出来たけれど

「ひっ…!……あ、ありがとう…」

咄嗟のことに小さな悲鳴をあげてしまった私をなんとも言えない表情で見つめる爆豪くん。なにも言えなくなって、ついうつ向いてしまう。

「オイ」

がしっと頬を捕まれて無理やり顔を上げられる。どうしても私は彼の掌が好きになれないようで身体がびくついてしまう。そんな私に気づいたのかジロリとこちらを睨んだ後、ゆっくりと離される

「…なにもしねえっつってんだろうがクソッ!」

「ひっ、ご…ごめんなさ…」

「だから謝んなやモブ!!!」

「爆豪お前真っ赤な顔で言って…そんなに素直になれないなんてもはや小学生レベルだぞ…」

「いや、その子には効果ないみたいだぜ」

効果は抜群です。ここ数日の間で彼の印象が"なんとなく怖そう"→"意外と怖くない?"→"めっちゃ怖い"という移り変わりが

「…クソッ、帰んぞ!」

「やっ…」

さすがの爆豪も好きな女子相手に無茶しねーだろあの様子だと
襲うのだけはダメだからなー
って後ろからお友達がついに匙を投げてしまう声が聞こえるけれど私には彼に好かれるという心当たりが全くない。確かに彼の行動を見ているとそう思わざるを得ない状況ではあるけれど、理由が浮かばない。ただのモブでしかも没個性どころではなく埋もれる個性すらない私に(彼がそのことに気づいたのは今日みたいだけど)彼が執着する理由が見当たらない。

「あ、あの!爆豪くん…」

「あ"ぁ"!?」

「なっ…んでも、ないです…」

歩く速度も歩幅も違うせいで小走りしつつ、必死についていく。だって着いていかなければ腕だけ持っていきそうな勢いだ。息もあがって、そろそろ限界が来そうな時、ついに彼が立ち止まった。

「座ってろ」

なにがあったのだろうかと息を切らしながらも首をかしげて考えていた私に一言言い残していなくなった爆豪くん。勝手に帰ってしまおうだなんて考えが過ったけれど逃げ切れるというビジョンが全く浮かばなかったのでそれは却下。おとなしくベンチに座ることにする

「…っひゃ、」

「飲め」

「……え?」

ドカリと隣に腰かけた彼はこれまた柄が悪い。座り方すら柄が悪い。
差し出されたイチゴミルクに目を瞬かせていると手を捕まれて、半ば無理矢理私の手の中にそれが収まった。隣では爆豪くんがスポーツドリンクを飲んでいる。

「あ、の…お金…」

「いらね」

「でも、」

「……悪かった」

「………!?」

予想外の謝罪に思わず立ち上がってしまった私を許してほしい。
謝られるべきことはたくさんあるけれど、爆豪くんが謝ることなんてないだろうなと本日合計一時間程度の情報量でも想像がつくことだった。下唇を突きだして、少し不貞腐れた様子だけれども彼は私の目を見てきちんと謝罪してくれているーーどの出来事についてかは心当たりがありすぎて分からないけれど

「つーか前髪、そのまんまにしとくなよな…女だろーが…」

ため息をつきながら少しだけ焦げてしまった私の前髪を触ってくる距離は、近い。

「そ、れは…爆豪くんが…」

「ん」

爆豪くんがやったくせに、って言いたかったのに真剣な表情で前髪を隠すように整えている彼の顔を見ることができない。そんな表情、ずるい。

「え、ちょ…!」

「いいから黙ってろ。」

整った前髪を満足げに見たかと思うとそのまま左手が彼の大きな手に包まれる。
お前みたいなやつは俺みたいに強いやつのそばにいるのが一番だとか言ってるけど爆豪くん、あなたが関わってきた本日まではわりと平和に過ごしていたんです私。

「あの、私…」

「んだよ」

でも、真っ赤な顔なのに視線をそらさずに必死に言葉を選んでいる様子でお話ししてくれる彼を見てると本気なのかもしれないと思ってしまう。こんなことは初めてだけどさすがに察することができる。彼はなにがどうしてかは分からないけれど私に好意を持っているらしい。

「あなたのこと、よく知らないし」

「俺だってお前のことよく知らねーよ」

「正直、爆豪くんのことはとっても怖い」

「……どこがだよ」

「大きな声、爆発する手…あと、睨まれるのも苦手です…」

「っ…それ、全部じゃねぇか」

すかさず口を開こうとしたかと思えばそのままおさえるように口を閉ざして、ゆっくり吐き出された言葉。
怖いと言った途端に離される左手。分かっている、私が思っているよりもよっぽど彼は優しいということを

「爆豪くんは、とってもすごい個性を持っていて」

「…おう」

「…ヒーロー科でも上位組で、どう考えても…無個性の私とは釣り合わない」

「…は?」

「私なんかといていい人じゃないんだよ爆豪くんは。」

爆豪くん、眉間のシワがひどい。

「なんか、だよ。実際爆豪くんだってビックリしたでしょ?無個性だなんて。爆豪くんも、物珍しいだけだよ…だから、もう私に構わないでくれると嬉しい…です。」

「…んだよ、一人で勝手に終わらせんなや。誰が飽きて捨てるって!?あ"ぁ"!?」

そ、そこまでは言ってない

「俺が構いたいから構うで何が悪ぃんだよ」

そんなの子供の発想だ
わかってはいるのだけどなんだか少しだけ嬉しく感じてしまう私はかなり疲れていたようだ

「帰んぞ」

数度目の台詞に今度は繋がれた左手が熱くてたまらない。そのまま文句を言いつつも家まで送ってくれた彼はやっぱりなんだかんだで優しいんだと思った木曜日



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