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□勝己(MHA)3
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廊下でジロジロと不躾な視線をぶつけられるのが痛い。だってあの爆豪くんが無個性と歩いてるのだから
ーーしかも手を繋いで

必死にそれは嫌だと言ったけれどこれは受け入れてもらうことができなくてもうすぐ涙が零れそうになりながら彼の斜め後ろを歩いた。俺がやりたいようにするってジャ○アンだよ爆豪くん。
会話はなくて、なぜか繋がれた手は恥ずかしいし怖いし嫌なはずなのに大きな手に安心もする。そんな矛盾に気づいてなんとなく居心地がよくない。
普通科の教室前について彼が立ち止まり、振り返り様に私の顔を見ようとしたけれど顔をあげることが出来なかった。泣き顔なんて見せられない

「っ!?」

「泣くほど嫌なんかよ…」

顔さえ上げなければと思ってたのに彼の方が一枚上手だったようで腰を屈めて覗き込まれた。しかも指でそっと涙を拭うというオプションつきで。

「だっ…て、恥ずかしい…」

「……お前、昨日から別に嫌じゃねえって言ってることに気づいてっか?んなに人目が嫌なら黙って俺の影に隠れてろや。」

バーカって言いながら最後に頭を撫でられて教室の中に入れられる。
あの爆豪が?どうして?みんないろんなことを話しているけれど爆豪くんを恐れてなのかひとまず絡まれることはなかった。
もしかして、守ってくれたのかな…
そもそもを辿れば爆豪くんが昨日あんなことをしてこなければただの影の薄い無個性さんだったのにと思う部分は多々あるけれどおそらく今、私は彼の存在に助けられている。
いつの間にか少しだけ彼の香りが移っていたみたいで自分からも甘い香りがしてそれが妙にむず痒い





HRが終わり、言われた通りに席について彼を待っていたら不意に背中に水がかかった。

「あ、ごめんねー?間違えちゃった」

クスクスと笑いながらこちらを見ている彼女は大気中の水を操って水鉄砲みたいに出せる個性だったかな。嫌がらせにしてはまだ優しい方だ

「ううん、大丈夫…」

構うのも逆効果だし、大人しく着替えることにしよう。今日は体育がある日でよかった。
でも、爆豪くんとすれ違ってしまって彼のご機嫌を損ねてしまうようなことがあるのは良くない。
その結論に至って多少の気持ち悪さを我慢して濡れた制服の上から体操服を羽織ることにする。

「みょうじ、行くぞ」

名前を呼ばれて下げていた顔をあげるとドアの前にここ数日ですっかり見慣れてしまった彼の姿が見える。はい、と返事をしてとことこと彼のもとへ向かう私を驚いた目で見つめるクラスメイトの視線に必死に気づかないふりをして出口へ向かう。

「つか、なんでこのクソ暑ぃのに上羽織ってんだよ」

爆豪くんの言葉に視界の端でびくりとする影が見えたけれど、本当のことを言ったとしても私にはなんの得もないと思い(何より嫌がらせされていることを告白するのはなんだか憚られた)、半袖焼けしたくないからと誤魔化す。誤魔化されてくれているかは不思議だけれどそれ以上言及されることもなかったので彼の興味はそこからなくなったのだろう。

「あの、爆豪くん…私もう逃げないよ…?」

相変わらず当たり前のように繋がれる手に困惑する。嫌だったら振り払えばいいだろうがと言われても私が爆豪くんに逆らえるはずもないのに。圧倒的な力の差も、男女の差もあるのだから

「…逃げるなんざ思ってねぇよ」

それは、そういうことなんだろうか。触れていたいというような意味なんだろうか。昨日の帰り道から彼がなんだか何もかもを赤裸々に明かしすぎてこちらが照れてしまう
思わず口からでたのはそうですか、という一言のみだったのになにがそうなんだよと突っ込まれることもなくおお、と短い返事が返ってくる。

最寄りから電車に乗り込むと何かのイベントがあるのかいつもよりもずいぶんと混んでいてまるで朝の通勤ラッシュ状態だった。

「ば、くごうくん…ごめっ…」

「別にどうってことねぇよ」

ぎゅうぎゅうに押される車内でも彼が私を隅まで誘導してくれたおかげで、爆豪くんとの距離はゼロ距離で緊張はするけれど不快感はなかった。さすがに力づくとはいえ質量には勝つことが出来ず私は完全に彼の胸元に顔を埋めている状態だ。甘い香りが強くなって、なんだかクラクラしてくる…決して彼の香りに酔っている訳ではなく、酸欠だと思いたい。

「…?お前…なんか背中濡れてねぇか」

急ブレーキによって流されないようにと背中に腕を回されて完全に抱き抱えられた状態になってしまいとても心臓に悪い…と息をすることも憚れるような気持ちでいると若干驚いたように彼が声をかけてくる。

「…え?あー、うん…汗かな?」

正直こんな汗だくなのかよと思われるのも癪だけれど一度誤魔化してしまったものは最後まで誤魔化し続けたいのでとっさに出た一言に眉をしかめる爆豪くん

「背中以外対して濡れてねぇじゃねぇか。俺の目を見てもっぺん言ってみろや」

あぁダメだ…ただでさえ近かった距離で彼から逃げられるわけもない。思わず泳ぐ視線に頭の回転が早い彼は全ての事項を繋ぎ合わせることが出来たらしい

「お前がそういうならそういうことにしといてやる。次舐めた嘘つきやがったらその口塞ぐからな」

ぐぐっと顔を近づけてとても凶悪な笑顔を見せた爆豪くんの一言に返事をしようとした瞬間、私の最寄り駅についた。

「じ、じゃあね…爆豪くん」

「家まで送る」

「え、ちょ…そんな毎日送られる理由がない…!」

「俺が、心配なんだよ。これで満足か?あぁ?」

大きなため息をつきながら言われてしまえば二の句を継げない。またも心地いいようなむず痒いような沈黙の中でうちまでの道のりを二人で歩く。

爆豪くんはいったいなにがしたいのだろうか。
告白紛いの発言がたくさん出ていて、こうして態度でも示してくれているけれど肝心の付き合ってだとか好きだとか核心をつく言葉がないから私は頭を抱えるばかりだ。



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