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□ディルムッド(F/Z)
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満員とも言えないなんとも中途半端な混みようの電車に乗り込んで、一日を振り返ってみる。
いつも通り会社に行って業務をこなして、いつも通りの時間に退室。特にこれといったこともなかったけれどもなんだか疲れがどっと襲いかかってくるから水曜日あたりは不思議だなぁ…。
駅から近い我が家だけどこの少しの距離すらもどかしくて、帰ったらお風呂はいって、ご飯食べて、明日の準備をして寝よう…あ、でもご飯はいらないかな、面倒だしとりあえず寝たいなぁなんて考えてしまう
エントランスを抜けてエレベーターに乗り込む。この時点でご飯なしが決定していた。だって面倒なんだもの。今はとにかくお風呂に入って布団に入って寝たい。出来ることならば朝風呂に切り替えて何もかも投げ捨ててとりあえず睡眠をとりたい
そんなとてつもない睡眠欲を抱えながら唸っているといつの間にかエレベーターは目的の階へ着いていたようだった。このまま乗り続けてまたエントランスに逆戻りだなんて恥ずかしいことになる前に現実に帰ってきて良かったよ、うん。
「ただぁー…」
誰もいないとは知りつつも、いま、って続くはずだった言葉は消えた
「おかえり。」
彼の笑顔によって
「ディ…ッ!?っさん!?」
わ、わ、わ、どうしよう私こんな…わああああ恥ずかしい…
目の前にいる彼はどこをどう見ても、私の愛する人で、焦った頭の中でも玄関にある全身鏡をちらりと見てみると映るのはどう考えても疲れ切ったひどい顔をした私と非の打ちどころのない美丈夫が映っている
「前にもらった合鍵、使ってしまったがよかっただろうか…?」
そんな焦っている私を見てもお構いなしにニコニコとこちらち話しかける姿も素敵で、久しぶりの彼(しかも心の準備なし、だ)に顔がかぁぁっと熱くなる。
「だ…じょぶで、す。」
ぷしゅううとでも音が鳴っていそうなくらい赤くなる顔。パンクしそうな頭の中、それだけ返事をすると私はもううつむくしかできなかった。
こんなひどい顔見られたくない
なのに彼と言ったら悪びれる様子もなく名無しさん、名無しさん、って飽きる様子もなく私の名前を呼ぶ。その声がとても楽しそうで、顔を見なくともどんな表情をしているのかだいたい想像がつく
「なぁ、名無しさん…怒ってるのか…?」
「そ…っ!!そんなわけない!!!です…」
俺が勝手に上がり込んだから…と落ち込む声が聞こえてはっと顔を上げてつい声を荒げてしまった
「やっと、こっち見てくれた。」
へにゃって微笑む顔が可愛くて。普段はキリリとしているのに今はすごく気が抜けたようなディルさん。
「ほら、おいで。おかえり、名無しさん」
ただいま、大好きな人
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