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□濯也(AO!)
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私は今、意中の彼に押し倒されています。

「ちょっ、まって…あ、の…赤山くん…?」

「なんですか。」

「いや、あの、どうしてこうなったのかな…なんて、思っちゃったり」

「みょうじさんが悪い。…です。」

視界いっぱいにいる彼、赤山くんは会社の後輩でつい最近までラグビーの日本代表だったスーパースターだ。
元々ラグビーには興味がなかった私はそういった興味とは別に彼のがたいに似合わず物腰が柔らかいところだとか、実はとっっっっても優しいところだとか、ちょっと(どころじゃないかもしれない)可愛らしいところだとか。その他理由をあげるときりがないけれど、いつの間にか好きになっていた。
好きだなぁと気づいたあとに必死にラグビーについて勉強してみたけれど彼がそれはそれはすごい人だと言うことがわかるばかりだった。

それはさておき、冒頭の問題に戻るけれどとにかく私はなんとも心臓に悪いこの状況から逃げ出したいのだけれども…

「あ、あの!ちっ近く!ないかな…!?」

意を決して近すぎることを伝えても無言で不機嫌そうに私を見下ろしてくる彼はいつもより少しだけ怖い。たまに見せる笑顔が可愛らしい彼はどこにいった。もうやだ。泣きたい。

状況を少しだけ振り返ってみると…今日は一つの山場を越えた打ち上げで職場の仲のいい数人のメンバーで飲み会をしていた。そこの会場に選ばれたのが独り暮らしにしては大きめのお部屋に住んでいる赤山くんの家だった。
週末ということもありついつい飲みすぎたメンバーは1人、また1人と倒れていき気づけば赤山くんと私の二人だけ。

二人で手分けして隣の部屋に布団を敷いて酔いつぶれた子達を雑魚寝させる。多少手荒だけれど酔っぱらい相手だしまぁいいだろう。私が布団を敷いた先から赤山くんはわりと容赦なくぽいぽい人を投げていた。

「みょうじさん、お酒強かったんですね」

「うーん…強いというほどでもないよ。ただ、ペースがゆっくりでつられないからだと思う。」

その言葉にきょとりと首を傾げた後にみょうじさんらしいです。だなんて微笑まれたらつい、顔が赤くなる。

「あ、俺ソファで寝るのでみょうじさんはベッド使ってください。」

「え!?いや、そんな…私こそソファで十分だから赤山くんがベッド使って?むしろそこで雑魚寝でいいくらい。」

まさか家主を差し置いて自分だけベッドで寝るだなんて出来ないし、少し大きめのソファは私にちょうどいいくらいだ。むしろ雑魚寝スペースに1人分は空きがあるからそこでもいい。
なにより赤山くんの寝室で安眠なんて出来ない。無理だ。

「…雑魚寝?ダメです。寝室使ってください。」

「だめ、赤山くんがベッド使って。」

「いやです。」

「私もいやだもん。」

私が俺がの戦いに終止符をうったのは彼のため息だった。

「はぁ…お願いだから言うこと聞いて下さい。」

「えっ、ちょ…!?赤山くん!?え?よ、酔ってるの?ちょっ、降ろして、よ…」

「酔ってません」

ひょいっと俗に言うお姫様抱っこをされて寝室まで運ばれる道は彼にとって十数歩程度だけど、とても長い時間に感じた。
人1人を意図も簡単に持ち上げてしまう彼の腕の中はその立派な体格の安定感のせいかこんな状況にドキドキしつつもなんだか落ち着くような気もする。
ちらりと下からお顔を覗きこんでみたけれど整った眉、キリッとした目、厚めの唇…ああああ唇見ちゃダメ。見ちゃダメなやつ…また顔が赤くなってしまう。

「おやすみなさい。」

とすん、ベッドに優しく下ろされたと思えばそのまま頭を一撫でしていなくなろうとしている赤山くんと今更またベッドの件で揉める気はおきないけれど

「こういうことしたら勘違いしちゃうからダメだよ…」

「勘違い?」

彼には届かないだろうと思ってたし、少し酔っていたしでぼそりと呟いた言葉が聞こえてしまったらしい。
心底意味がわからないといった様子で首を傾げてこちらを見ている赤山くんを見ていると意識してるのは私ばかりなんだなぁと悲しい気持ちにもなってくる(一方通行な思いなのは当たり前なのだけど)

「だってこんなに優しくされたら、勘違いだってしたくなる。私ばっかり好きになっちゃうもん。ずるい。」

「…は?」

「おやすみなさい。」

逃げるように布団の中に潜り込んで彼に背を向けるように寝転がったけどこれは失敗だ。この空間すごく赤山くんの匂いがする。落ち着くわけがないし、出来れば今すぐにでも抜け出して床で眠る道を選びたい。だけどまだドアが閉まる音どころかなんの物音も聞こえないから彼はまだ私の後ろにいるのだろう。
勝手に勘違いしそうになって、八つ当たりして…こんな面倒な女は合わせる顔がない。このまま赤山くんが立ち去って、明日の朝には酔ってて忘れたふりをするか赤山くんが忘れてくれることを祈ろう。そうすることにしよう。

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