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□勝己(MHA)4
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あれから数日が経ったけど爆豪くんは相変わらずだ。すぐに飽きてしまうだろうと思っていたのにむしろ彼の過保護は悪化している。ちなみに告白紛いのことは毎日されているけど未だに核心はつかれていない。
お昼休みは教室まで迎えに来てくれるようになったし…彼の移動速度は早すぎる。そのため雨が降っていても一緒にお昼休みを過ごすようになった。帰りは毎日迎えにくる。しかも私が背中を濡らされた金曜日以降、こちらに来るまでが五分と経たずで…すごく早い。

「爆豪くん、あの…」

「なんだよ」

「……手、せめて普通にっ…」

「これが普通だろうが」

手の繋ぎかたが変わった。最近の彼は触れ合いを酷く好んでいるらしく、恋人繋ぎをしたがるし、ベンチでもそっと私に触れることが多くなった。恋人同士ではないから普通じゃないよ爆豪くん
私もずるいことはわかっている。彼の気持ちに返事をしないまま、意見を述べるのが怖いからという理由を並べ立てて今日も彼の優しさに甘える。
やっぱり彼の個性は怖いけれど、最初の時以来彼は私の前で個性を使うことがなくなったので最初に比べて彼の手は怖くなくなっている。怒っている姿もしばらく見ていないのでやはり根は穏やかな人なのかなと勝手に思っている。それに久しぶりに普通に接してくれる人がいて嬉しいのは隠せなくて、ついこの状況に甘んじてしまう。

『帰り補習になっちまったから自分の教室以外のどこかで待ってろ』

最後の授業が終わり、スマホを確認すると爆豪くんからのメッセージーーいつの間にか連絡先も交換して彼の連絡専用となりつつある私の寂しいスマホだ
教室以外と言われても図書館くらいしか思い浮かばないし、私が待つことで忙しい爆豪くんを急かすようなことをする必要もない。

『連絡ありがとう。今日は用事があるからそのまま帰ります。』

小さな嘘を一つついて、一人で帰ることにする。
大きな通りを歩けだとか、寄り道して遅くなるなとかメッセージがぽこぽこと送られてきてつい笑いが溢れる。16年間ほど生きてきて両親にさえここまで心配されたことはない。
了承の意を返信して帰路を急ぐ。学校から駅までは大通りを進むルートしかないし、駅から家までもそれほど離れていないので特に心配もないだろう



「爆豪くん、補習ってなんの補習なのかな…っ!?」

彼は成績優秀だから補習という単語が似合わないなぁなんて考えつつスーパーを出る。母に突然頼まれた買い物を済ませて駅に向かっていると、突然腕を捕まれて物陰に引きづりこまれた

「君、無個性ちゃん?」

「………え、」

「君みたいにうつ向きかげんな子って無個性かゴミ個性の子なんだよね」

「……っ、」

両腕を押さえられて逃げることも出来ないし、突然のことに恐怖のあまり大きな声も出せない。腰が抜けているのに腕を捕まれているせいで無理矢理立たされているような状態だ

「無個性だったら高く売れるしラッキーだな。しかもJK…少しだけ味見するか」

「やっ…!」

「お兄さんの言うこと黙って聞いてれば怖くないからね〜」

「は、なし…ひっ、」

「傷はつけたくないから大人しくしてね」

どうやら指が刃物に変わるらしい個性で首もとにナイフを突きつけられる。ビリビリ少しずつブレザーを切られる音と私のすすり泣く小さな声だけが響き渡る。

「…ひっ、ぅ………、やっ!」

「黙れ」

大きな手が肌に触れた瞬間にざわりと寒気がして先程よりも大きな声が出ると途端に首もとに傷をつけられる。このまま良いようにされて死んじゃうのかな…さっき売るとか言ってたからまだ死なないのかな…いっそのこと何も考えられなくなりたいのに色々な考えが過っては消え、素肌に触られる感覚で現実に呼び戻される。

爆豪くんなら、こんな乱暴に触れないのに。

そもそも比べることが失礼だし、きっと彼には怒られてしまうだろうけど爆豪くんに触れられるのは心地がよかったのになぁなんて。目を閉じてひたすら耐えるしかない私の目蓋の裏には少しだけ照れた様子の彼ばかりが浮かんでは消える

「おい、おっさん」

「んだよ、邪魔すん…っ!」

急に圧迫感が消えて腕が解放される。

「…ば、くごうくん…?」

「あー…ごめんな爆豪じゃなくて」

苦笑いしながらこちらを見る彼は爆豪くんと一緒にいたお友達の赤い髪の彼。

「おっさん、この子さ…俺のダチが珍しく気持ち悪いくらい大事にしてるみたいなんだわ」

「うっ…こ、のクソガキ…!」

「今警察呼んだから大人しく待ってろ」

鳩尾を強かに蹴られて気絶したのか途端に大人しくなった男を横目でみやってから彼が振り返る

「スーパーで見かけたから声かけようか悩んでた内に外で見失っちまって…もうちょい早く見つけられれば良かったな…ごめん」

「あ…」

ふわりとワイシャツをかけられる。身体の震えが収まらない。お礼を言わなくてはならないのに言葉を紡ぐことが出来ない。立ち上がりたいのに腰が抜けて立ち上がることが出来ない。大丈夫大丈夫と繰り返し声をかけてくれる彼には悪いことをしている

「もうすぐ警察来てくれるけど、どうする?爆豪呼んだ方がいいか…?」

「よ、呼ばないで…」

咄嗟に、知られたくないと思った。誰よりも彼には知られたくなかった。
多少渋りながらも同意してくれてそのまま警察がきてからも一緒にいてくれた彼には頭が上がらない。事情聴取もその場ですぐ終わり、内容が内容だし未成年だからとあまり大事にはならないらしい。親には警察から連絡が行き、母親が迎えに来てくれた。
泣きながらお礼を言う母に真面目な顔で受け答えをしていた彼がふいにこちらにきて、また学校でなって普通に声をかけてくれることがありがたくて素直にありがとうという言葉がやっと出てきたのはその時のことだった。



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